文化水流探訪記 書評|やけのはら(青土社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年1月19日 / 新聞掲載日:2019年1月18日(第3273号)

「ないない」な物事や事象、感情などに、 より興味と価値を見出す

文化水流探訪記
著 者:やけのはら
出版社:青土社
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文化水流探訪記(やけのはら)青土社
文化水流探訪記
やけのはら
青土社
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青土社から出ているが往年の晶文社を思い出す感触の本だ。バラエティ・ブック。その元祖である植草甚一の一連の書物を浮かべながら読んでいったら、案の定、植草が登場した。

「今でも何かを探してる」というタイトルを付けられたそのコラムは、植草について書かれたものなのに、本文には植草の名前が出てこない。情報と体験に対する思想が書かれたこの文章は、植草から受け取ったものを、著者なりに咀嚼したアウトプットなのだ。一文は、植草の言葉を援用してこう締め括られる。

「散歩や雑学がすきでも、すきでなくても、知らない本や本屋を捜したり読んだり。まあ、いつも夢中になったり飽きてしまったり、するのだけれど」

著者であるやけのはらが「夢中になったり飽きてしまったり」した物事について語ったコラムを編んだもの、それがこの本だ。音楽、文学、漫画、映画、美術……、対象は多岐にわたるが、ミュージシャンという仕事柄、音楽や音楽家の比率がやはり高い。

伊丹十三、山下達郎、川勝正幸、ダニエル・ジョンストン、ヘンリー・ダーガー、水木しげる、大瀧詠一、フェラ・クティ、山口瞳、向田邦子、こだま和文、ムッシュかまやつ、デリック・メイ、ロバート・アルトマン、赤塚不二夫、ジョン・ウォーターズ、ザ・ブルーハーツ、阿佐田哲也(色川武大)、エルヴィス・プレスリー……。

選択に個性があって、サブカルからもオーソドクシーからも少しずれている。あとがきの自注によれば、アウトサイダーに肩入れしがちな志向・好みと、共感を頼りにした「あるある」より、たやすい理解を阻む「ないない」な物事や事象、感情などに、より興味と価値を見出す傾向の結果こうなったという。

「文化水流」というタイトルがよく示しているように、文化とは連綿と継承されてきたものであり、自分や読者も、バトンを受け、そして渡す者として、その水流に自覚的に飛び込まなければいけないという意識も強く滲んでいる。ハウスやダブ、ヒップホップといった音楽カルチャーや、モータウンやECMなどインディペンデントから始まったレーベルを高く評価するのも、それらに、意志を伴った継承と(ときにイレギュラーな)発展の実践を見ているからだ。

文化に対してずいぶん保守的である印象を受けるかもしれない。それは著者のやっている音楽がヒップホップであることにおそらく由来している。なぜならヒップホップこそ、伝統と共同体に重きを置きながら、ポップ・ミュージックに決定的とも言える革命をもたらしたムーブメントだからだ。保守と革新という対立は、ヒップホップ以降もはや無効なのである。
この記事の中でご紹介した本
文化水流探訪記/青土社
文化水流探訪記
著 者:やけのはら
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
「文化水流探訪記」出版社のホームページはこちら
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