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”Letter to my son"
更新日:2019年1月22日 / 新聞掲載日:2019年1月18日(第3273号)

Letter to my son(24)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI
“歓喜とは旅立つこと/内陸の魂が海へ/家々を抜け/峠を抜けて/深い永遠の場所へ”

チェルシーにあるADifferentLight Bookstore。ここで毎週続けてきた朗読会も今日で最後。読み終えた2冊目の詩集をゆっくり閉じながら、9.11の3日後に開いた朗読会のことを思い出していた。皆がなんとか日常に戻ろうと必死だった。街中が星条旗に埋め尽くされる中、持ち寄ったレインボーフラッグを店のドアや窓に貼りつけ、キャンドルを灯し、今日と同じくEmily Dickinsonの詩を祈るように読んだ。その日の帰宅途中に立ち寄ったいつものカフェで、万年筆が使い物にならなくなるほど一心不乱に書いた、9.11と同時に世界から消えてしまったあの青年についての詩。それを最後に読み上げようと、私はずっと開くことができなかったノートをゆっくり開いた。

開けっ放しの窓から舞い込んだ蒸し暑い風が、がらんどうになった部屋を駆けめぐる。壁に1枚だけ残った紙がふわりと羽ばたくように揺れた。この部屋に暮らし始めた頃、詩人が聞かせてくれた詩を慌てて書き留めたノートの切れ端。ピンナップされているそれを外し折りたたむ。見送れず本当にすまない、と詩人は何度も謝りながら僕を強く抱きしめ、朗読会へ出かけていった。ついさっきの詩人の温もりと首筋の甘いにおい、窓の奥に見えた夕陽に耀うふたつのタワーの眩しさを反芻する。どうか詩人がさみしがりませんように。僕は折りたたんだばかりのそれを開き、シワを丁寧に伸ばしてから壁に戻した。

JFKに着いたらすぐメッセージ送ってね、いい?パスポートある?塗り薬は?と大騒ぎなパパふたりを思いっきり抱きしめる。「心配しすぎ。大丈夫だよ。じゃあ行ってくるね!」手荷物検査への長いゲートをくぐってから振り向くと、人垣の中から飛び出た、ふたりのピースサインが遠くに見えた。僕も思いっきり背伸びをしながら、ピースサインをまっすぐ振り上げた。
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