異質性と同質性   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く (90)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年1月22日 / 新聞掲載日:2019年1月18日(第3273号)

異質性と同質性   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く (90)

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リュクサンブール公園にて(18歳の頃)
HK 
 ドゥーシェさんの批評の中心にある「生」という考え方は、より包括的な概念だと捉えてもよろしいのでしょうか。
JD 
 はい。映画とは「生」です。偉大な映画こそが「生」なのです。そして、取るに足らない映画は「存在」なのです。
HK 
 再度、同質性と異質性の単純な考え方について伺いますが、よくよく考えると、正しいとは言えません。
JD 
 (笑)
HK 
 例えばルノワールの映画を、よく見ることができるとします。通常、彼の映画は古典映画として理解されるはずです。
JD 
 しかし同時に、ルノワールの映画は古典ではないのです。
HK 
 ええ。彼の映画は、異質性によってこそ出来ているように見えます。
JD 
 間違いなく、ルノワールの映画の中には、異質なものが存在しています。彼の映画は、調和によって成り立っており、話に一貫性はあります。しかし、その一貫性が、連続性を妨げることと相反しないのも事実です。映画の始まりから終わりまで、流れを妨げるものが存在しているのです。それにもかかわらず、映画が機能しているのです(笑)。
HK 
 ルノワールによって翻案された作品については、どのように思いますか。『ボヴァリィ夫人』、『女優ナナ』、『コルドリエ博士の遺言』といった作品は、普段の会話にはほとんど出てきませんし、シネクラブなどで取り上げることもありません。
JD 
 翻案された作品も面白いものです。しかし、ルノワールがどのようにして書物から話を利用したのかという点において考えなければなりません。面白いと思わされるのは、いかにして小説が映画になったかという点です。私たちが映画作品を見る上で気を惹かれるのは、「いかにしてフロベールの『ボヴァリィ夫人』は、ルノワールの『ボヴァリィ夫人』と異なるのか。しかし、それでも同じ『ボヴァリィ夫人』の話であり続けている」という事実なのです。その違いが非常に面白いのです。ルノワールとフロベールは、同じ時間感覚を持っていません。ルノワールはすでに継起する時間、つまり連続性の感覚は持っていません。ある出来事が起きたから、次の出来事が続く、そしてまた別の出来事の契機となる。ルノワールは、そのような感覚からはすでに遠のき始めています。
HK 
 翻案という問題に関して、40年代から50年代にかけて、映画批評の分野でも非常によく取り上げられていました。当時の大部分の映画は文学や演劇の翻案だったので、目につく問題だったのだと思います。
JD 
 以前は、多くの翻案に関する議論がありました。それは歴史的流れによるものです。映画がトーキーになってから—サイレントの時代から少しずつそのような傾向はあったとも言えますが—、映画は物語への傾向を強めていきます。それまでの小説や文学は、少なくとも物語を語っていました。そのため映画は多くの着想を文学から得て、物語を撮影することになったのです。その後60年代に入ると、物語はすでに作られていたものではなく、作られていくものではないかという考えが表立ってきます。これは、ヌーヴェルヴァーグによってもたらされた、大きな変革の一つだったと言えます。物語は作られていくものである。すでに作られているものではない。文学や演劇から物語を翻案している段階では、作られた話に沿った物語展開をするしかありませんでした。そして、ルノワールが面白いのは、あたかも話に沿った物語展開をしていると見せかけながらも、実は全てを台無しにするだけの可能性が常に潜んでいるという点です。
HK 
 物語に沿ったふりをしているというのは、いい表現だと思います。普段あまり文学に触れる機会がないのですが、それでもフロベールとルノワールの間にある演出法の違いはよく見えます。ルノワールで記憶に残っているのは、馬車からの風景や編集の変わったつなぎ方です。フロベールでは、映画シナリオのような客観的な文体が記憶に残っています。
〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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