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更新日:2019年1月25日 / 新聞掲載日:2019年1月25日(第3274号)

第160回 芥川賞・直木賞 決 定

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右から芥川賞の上田岳弘氏、町屋良平氏、直木賞の真藤順丈氏
一月十六日、平成最後となる第一六〇回芥川龍之介賞・直木三十五賞(日本文学振興会主催)の選考会が開かれた。芥川賞は上田岳弘氏の「ニムロッド」(『群像』十二月号)と町屋良平氏の「1R1分34秒」(『新潮』十一月号)の二作。直木賞は真藤順丈氏の『宝島』(講談社)。今回W授賞となった芥川賞の上田氏は三回目、町屋氏は二回目のノミネートでの受賞となった。

選考委員の会見で、芥川賞選考委員を代表して奥泉光氏は、「上田氏の作品については、大変完成度が高かった。本作は仮想通貨のビットコインを中心にした物語で、会社員の主人公とその恋人や友人との関係という日常的なところからスタートし、小説中小説という形で最後に非常に大きないわば人類の営みの終わりというものを、バベルの塔という神話的なイメージを借りながら小説中に導入している。選考委員の言葉でいうと「大変な跳躍力」で、非常に大きな世界観と日常的な出来事を繋げていくその手際の良さが授賞に至った。私個人もこの小説には人類の営為というものの終わりに対する一種の哀惜感が滲み出てきた作品ではないかと感じた。もう一作の町屋良平氏の「1R1分34秒」はボクシングをする若者のいわば青春小説。評価されたのはこの小説における徹底性で、徹底してボクシングをする若者の日常を描く。その筆の迫力、そういうものが一番評価された。仮にこれが虚構で実際のボクサーが読んだときにこんなことは全く嘘だと言われたとしても、読み手、少なくとも私はこの作家に騙されてもいいと思わせるだけの言葉の力というものがこの作品にはあった」。

講評の途中で直木賞の授賞作が貼り出されると、奥泉氏が突然、「山田風太郎賞でも超一押しだったのが『宝島』。沖縄の戦後を描く大変素晴らしい作品で力強い語りを持つ出色の作品」と激賞する異例の場面もあった。

直木賞選考委員の林真理子氏は、「真藤順丈氏の『宝島』は、戦後から返還までの沖縄の歴史を描いた青春小説ともとれる窃盗団の少年少女たちの物語。非常な熱量で沖縄の人たちの強さ、明るさ、ちょっといい加減な面白さというものが見事に描かれている。本作は語り手が茶々を入れるというとても面白い文体になっていて、これはラップじゃないかとかこれは地霊であるという意見も出た。真藤氏の才能を讃える声が選考委員からも漏れ、文句なしの授賞だった。選考過程は最初の投票で圧倒的な票を真藤氏が集めた。この平成最後の年になって沖縄の辛い歴史をポップに描くことの出来た作家が現れたということに大きな感銘を受けた」。

会場を移した記者会見で、新春歌舞伎を鑑賞しながら連絡を待っていたという上田氏は、小説を書くことの意味、未来の小説の姿を問われ、「小説に限らず芸術全般において、これって意味があるのという行為を続けていくことで人間というのは存在を担保されているんだなという気がしている。小説ではダメな飛行機というモチーフを出したが価値があるかどうかわからないものにかけてやっていくという、効率では換算できないそういうものが人間存在の根本にある。そういう行為を続けていくことが大事なのではないか」と答えた。

編集者と一緒にウーロン茶を飲みながら連絡を待っていたという町屋氏は、「小説を書くことと体と対話しながら生きていくということを主として考えている。今回はそうした思いをしっかり文章にのせることが出来た。しっかり書けたなという思いがあった」と述べた。

真藤氏は講評で評価された本作の語りについて、「この語りに自分自身も救われたところがある。ここで表現したいのは市井の人たちの息吹であるとか逞しさ、明るさ、巧まざるユーモアみたいなもので、その語りがおのずと出てきた。沖縄は常にアクチュアルな問題であり、常に我々が考えなければいけない問題。全身全霊で自分の書く小説というものを面白いものとして届け、読者の心に響かせられるものが書ければ、沖縄出身ではない自分が書いても普遍性というものを自分なりに抽出できるのではないか」と述べた。
この記事の中でご紹介した本
宝島/講談社
宝島
著 者:真藤 順丈
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「宝島」出版社のホームページはこちら
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