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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年7月1日 / 新聞掲載日:2016年7月1日(第3146号)

書評
研究の「集大成」を世に問う 近代日本製糖業の発展のダイナミズムを析出


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本書は、これまで当該分野において精力的に研究成果を発表し続けてきた著者(久保文克氏)が、それらを集大成する形で世に問うた、日本近代製糖業史研究の決定版と言うべき力作である。1900~43年の時期の日本製糖業を研究対象とするわけであるから、その主要な舞台は、自ずと植民地・台湾ということになる。著者の一連の研究は、(1)四大製糖(台湾製糖、大日本製糖、明治製糖、塩水港製糖)を中心とする個別製糖会社の経営史的研究、(2)戦前日本を代表するカルテルであった糖業連合会をめぐる競争と協調についての研究、(3)近代製糖業の「心臓部」である原料甘蔗栽培をめぐる製糖会社と台湾甘蔗作農民との関係についての研究、の三つの柱からなるが、「(1)から(3)の個別研究を有機的に融合することが本書に課せられた最大の課題」(4頁)であり、その意味で、本書は著者の諸研究の「集大成」なのである。
そのなかで著者がとくに力を入れるのは、(1)の製糖会社の経営史的研究である。本書のタイトルに「経営史的研究」という表現が盛り込まれているのはそのためであるが、具体的には、第1~4章で、四大製糖各社の経営史的分析を行う。そして、台湾製糖についてはパイオニア企業として獲得したリソースの活用と「準国策会社」としての堅実経営がもたらした成長の鈍化、大日本製糖については失敗からの再生を可能にした藤山雷太・愛一郎父子の革新的企業者活動、明治製糖については相馬半治・有嶋健助の革新的企業者活動による多角化と成長、塩水港製糖については企業家槇哲の挫折と復活に、それぞれ光を当てる。つまり、第1~4章の分析は、四大製糖各社という緯糸(よこいと)と、一貫した分析視角(革新的企業者活動・先発優位と後発企業効果・失敗と再生など)という経糸(たていと)とが織りなす、一編の見事なアンサンブルを構成しているわけである。
四大製糖の個別経営史を検証し終えた著者は、第5章で、それらの帰結である四社の相互関係のあり方、別言すれば競争と協調のあり方に目を向ける。そこで明らかになるのは近代製糖業の水平的な構図であるが、第6章では一転して斯業の垂直的な構図に視点を移し、製糖会社と甘蔗作農民との関係について言及する。第5章には前述した著者による(2)の研究の成果が、第6章には同じく(3)の研究の成果が、それぞれ集約されていることになる。
以上の概観からもわかるように、全編を通じて貫かれる体系性は、本書の大きな魅力となっている。本書は、「失敗と再生」および「後発企業効果」という二つの分析フレームワークを用いて、近代日本製糖業の発展のダイナミズムを析出する。そして、その本質は、「激烈な企業間競争のダイナミズム」と「革新的企業者活動の相互連携的展開のダイナミズム」という、二つの位相のダイナミズムの同時作用にあったと、結論づけている。
本書が析出したダイナミズムの帰結として、「日本を代表する主力産業」(249頁)へと発展した製糖業。その製糖業は、第二次世界大戦の敗北による植民地・台湾の喪失という大きな条件変化を受けて、その後、どのような展開を示すことになったのか。本書で戦前期の分析をひとまず完結させた久保氏を待ち構えているのは、戦後日本製糖業の経営史的研究という、魅力的なテーマである。
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