第64回 角川短歌賞・角川俳句賞 贈呈式|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

受賞
更新日:2019年1月25日 / 新聞掲載日:2019年1月25日(第3274号)

第64回 角川短歌賞・角川俳句賞 贈呈式

このエントリーをはてなブックマークに追加
受賞者の山川氏(前列㊨2人目)と鈴木氏(前列中央)と選考委員
一月二十一日、第六十四回角川短歌賞、角川俳句賞の贈呈式が、東京・丸の内の東京會舘で行われた。短歌賞は「オン・ザ・ロード」で山川築氏が、俳句賞は「牛の朱夏」で鈴木牛後氏がそれぞれ受賞した。

短歌賞の選考委員、伊藤一彦、永田和宏、小池光、東直子の四氏を代表して、永田氏が選考経過を述べた。「山川さんは描写のツボを心得ている。普段何気なく見ている情景のディテールを非常にうまく掬い上げる。情景の中にある、普段人が気づかない部分に気付くことで、読者に驚きをもたらす、喚起力、衝迫力がある。選考のあとで未来短歌会に所属し、大辻隆弘さんに学んでいると知りましたが、なるほど大辻さんに流れているディテールを大切にするところ、あるいは佐藤佐太郎から続くまなざしの懇ろさが、山川さんの作品にも表われている気がします。

例えばこういう歌があります。〈来し道を戻る人あり左手の指を手帳にはさみたるまま〉。単に持っているのではなく、手帳に指が一部挟まれている。我々が普段見ているようで見ていない部分に気付かせてくれる歌は、素晴らしい。もう一首〈石垣のひとつひとつの石にあるくぼみに指を添はせてをりぬ〉。石垣に指を添わせているという表現はあるかもしれない。でも石にあるひとつひとつのくぼみに、指を添わせる、という表現ができるのは大したものです。新しさに欠けるという批判はありましたし、確かにそれはその通りですが、新しいものを求めることは必要だけれど、歌の価値はそれだけではない。山川さんがこれからどのように変わっていくのか、大いに楽しみにしています」

俳句賞は選考委員、仁平勝、正木ゆう子、小澤實、岸本尚毅の四氏を代表して、正木氏が述べた。「鈴木さんは酪農家でいらっしゃいます。前回も予選を通過しましたが、牛の句が今回程多くなかった。もっと酪農を詠んだ句を増やしてほしいと私たちはコメントしました。鈴木さんにとって酪農は通常の生活ですが、私たちにとっては珍しく興味深い世界です。そして期待通りに牛の句をパワーアップして応募してくださった。詠むべきテーマがはっきりとあり、命と自然と生活の厚みをどっしりとそなえた作品でした。

鈴木さんの句の特徴の一つは、即物的であることです。例えば〈仔牛待つ二百十日の外陰部〉。「外陰部」という言葉が俳句に使われたのははじめてだと思いますが、清潔感のある命の俳句になっています。「二百十日」という台風の気配のする中で、お産をする牛。その外陰部から仔牛が見えてくるのを待っている。「外陰部」をクローズアップして省略が効いています。あるいは〈牛死せり片眼は蒲公英に触れて〉この句も、即物的かつ映像的です。死んでいる牛の全体から、片眼へとカメラが寄っていく。「蒲公英に触れて」で、まだ透き通っているであろう牛の眼球と、そこに触れている蒲公英がクローズアップされます。球面と球面が触れ合っているようなその取り合わせが、天体の曲面をも連想させ、神性ささえ感じました。さらに「蒲公英」という季語の働きで、場の空気や風、牧場の広々とした春の風景へとカメラが引いていく。また生きているときには目玉が蒲公英に触れはしないわけで、そこに憐れを感じさせる。即物的故に、情報量の豊かな一句です。

鈴木さんの句の特徴についてあと二点言いますと、一つはオノマトペが面白いこと。例えば〈炎天にくわわと山羊の糞小山〉〈ストーブを消せばききゆんと縮む闇〉。意外でありながら、的確な表現だと思わせる力があります。もう一つは、地の句の豊かさです。地の句とは、いわゆる立派な目立つ句ではない作品、それらにもしみじみとした味がある。例えば〈牛産むを待てば我が家の冬灯〉〈仔牛の寒衣脱がせ裸と思ふ春〉。酪農分野の貴重な俳句を、これからもたくさん作っていただきたいと思います」
受賞者の山川氏は、大辻隆弘氏の『時の基底』に書かれていた「自分を消す」ために歌を詠む、という言葉に、驚きと納得を得、外の世界に意識的に目を向けて短歌を作るようになった。自分の内側よりも自分の外側の世界の方が広く豊かで、面白いと思っている。短歌は楽しい遊び場だが、一方的に遊ばせてもらうのでなく、短歌という大きなものに何かを返せれば、と話した。

鈴木氏は、農業や漁業、林業をやっている人の中には、仕事に対して、あるいは自然の事物に対して、素晴らしい目を持っている方がいる。自分の俳句がこうして少し目立つところにあることで、そうした人々が俳句をはじめてくれたらと思う。辺境から文学が変革するのかもしれないことを意識しながら、これからも辺鄙なところから発信していきます、と話した。

当日は併せて第十回角川全国短歌大賞、第十三回角川全国俳句大賞の贈呈式も行われた。短歌大賞〈自由題部門大賞〉は〈大人にはなりたくないし答えより問いを見つけていたい土曜日〉で小林理央氏が、〈題詠部門大賞〉は〈震災を忘れないため建てられし木碑に刻む「逃げろ 逃げろ」と〉で疋田愛子氏が受賞。俳句大賞〈自由題部門大賞〉は〈校門の残花や夜の始業式〉で髙杉光昭氏が、〈題詠部門大賞〉は〈馬の眼にしづかな地平揚雲雀〉で下島啓子氏が受賞となった。
このエントリーをはてなブックマークに追加
受賞のその他の記事
受賞をもっと見る >
学問・人文 > 評論・文学研究 > 日本文学研究関連記事
日本文学研究の関連記事をもっと見る >