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”Letter to my son"
更新日:2019年1月29日 / 新聞掲載日:2019年1月25日(第3274号)

Letter to my son(25)

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プールサイドで肩を寄せ合い海を眺めているパパたち。僕の一番好きな光景。後ろからふたりの間に分け入ると、お帰り、とふたりの声がまるっきり重なって、3人で笑い出す。ボーダーコリーのOTAが何事かと駆け寄って来て、僕の膝と膝の間にちょこんと座る。OTAを抱きしめ、ふたりに抱きしめられ、水平線に隠れ始めた夕陽のやさしい光に包まれる。
目を開けると見慣れない天井が広がっていた。昨夜いつの間にか眠ってしまったみたい。少しずれた眼鏡を直し時計を探す。〈11:08〉。寝過ごしちゃったなと思いながら起き上がり、 キッチンへ向う。テーブルの上にはラップに包まれたふたつのマフィンと、“おはよ。あとで珈琲 飲みにおいでね”と書かれたメモ。僕はマフィン片手にミルクを取り出す。冷蔵庫の扉には、たくさんの切り抜きや走り書きのメモに混ざって、色褪せた写真が1枚、マグネットで留められている。
ロロロンと受信音が鳴った。あの懐かしいキッチンでピースしてる息子のセルフィーが届く。一昨日旅立ったばかりなのに、もうさみしくてしょうがない。泣きっ面の僕たちとは裏腹に、陽気に微笑む息子が頼もしくて、とうとう泣いてしまう。ロロロン。“これ見つけたよ。みんな若~い!”というメッセージとともに、もう1枚写真が届く。頬に大きなレインボーのペイントをした笑顔の3人が写った、見覚えのあるスナップ写真。涙で虹色がぼやけ、視界いっぱいに広がる。どうか息子を見守ってください。心の中で詩人に祈った。
窓辺に置かれた小さなガラスの灰皿に太陽が砕け、部屋中に琥珀色の光の水しぶきが広がる。誰かと体を寄せ合っているような、あたたかさのある眩しい光がふわりと僕に降り注ぐ。窓の向こうに広がるでっかい青空にパパたちの面影を見る。OTAの鳴き声にそっくりなクラクションが遠くで鳴り響いて、僕は思わず微笑む。そして、ミルクを一気に飲み干した。
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