【横尾 忠則】絵を描き過ぎて倒れ、絵を描きまくって快癒|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2019年1月29日 / 新聞掲載日:2019年1月25日(第3274号)

絵を描き過ぎて倒れ、絵を描きまくって快癒

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梅原猛さん夫妻と。梅原さんの家を訪ねた数年前
2019..14
 〈2匹ノ猫ノ腹ヲ破イテ内臓ヲ出ス。モウ一匹ハ体ヲ切断スル。ナントモオゾマシイ〉夢だこと。

梅原猛さん死去。体調が悪いと聞いていたが、まさかと驚く。梅原さんはいつ会ってもニコニコ恵比須顔で、進行中の仕事の計画を饒舌に話された。梅原さんとは茂山千作さんとのスーパー狂言3部作の衣裳と舞台美術(円空賞受賞)、ポスターを制作、パリ公演も同行する。また梅若六郎(現・梅若実)さんとはスーパー能の「世阿弥」のポスター。「次は一休をやりましょう」と意欲的だった。『人類哲学序説』は刊行されたが本論は? 100歳まで生きても完成しない仕事が沢山あるとおっしゃっていたが。日本文化の原理「草木国土悉皆成仏」の思想で西洋哲学を批判しなきゃ、とおっしゃっていた。

微熱のままアトリエへ。咳激しく、咽は木枯しのような音を立てて駆け巡る。半病人なり。
2019..15
 〈二間続キノ和室ノ襖ヲ取リハズシテ、敷居ノ上ニ坊主頭ニ学生服ノ若者ガ手ニ短刀ヲ握ツテ仁王立チデ寝テイルボクノ足元ニ立ツテ監視シテイル。眠リヲ妨害スル何者カガイル〉不眠を形象するような悪夢なり。

〈バスノ乗客ノ一人ガ「耳鳴リト聞イテイマスガ」ト言ウ。「ジヤナクテ難聴デス」ト答エル。話シ掛ケラレテイルウチニ乗リ越シテ次ノ停留所デ降リル。運転手ハ真スグ行クトセンター街ガアリマスト言ウ。ココハドウヤラ神戸ラシイ〉

散歩中の田村正和さんに会う。声が出ない人と耳の聞こえない人の会話はトンチンカン。

午後玉川病院へ。呼吸器気管支の長先生はそれほど心配はないが2、3日は外出しないで、暖かくして下さいと。

夕方、NHK大河ドラマ「いだてん」の題字、ポスターなどの反響報告に。

就寝前の体温36・8度。
2019..16
 〈ホテルノ部屋ニチエツクインスルガ隣室ノ境イハ襖ニナツテイテ、隣リノ客ハ、キヤバレーニ勤メル女。ソノ女ガ隣室カラ話カケテクル。相手ニシナキヤ、襖ヲ開ケテコチラノ部屋ニネグリジエノママ入ツテキテ「私ジヤダメナノ」ト文句ヲ言ツテイル〉

〈美術家ガステージデアトラクシヨンヲヤツテイルノヲ椹木野衣サント観テイル、今シガタ「緋牡丹博徒」ヲ歌ツタ藤純子サンガヤツテキテ、昔ノ想イ出話ト何故カ、彼女ガ荒川修作ノ話ナドヲスル〉

アトリエを温室化して、ソファーに横たわって、躰を労わる。
2019..17
 体温の変化、相変らず激しい。午前中はベッドに伏す。

先日の「アパートメント」(アメリカの雑誌だと思っていたらスペインだった)の自宅のインテリアの写真撮影とインタビュー。

向いの水野クリニックにインフルエンザと肺炎の検査に。両方ともマイナスで安心するが、熱も常に流動的。36・5度から36・1度まで下ったかと思うと夜再び36・8度まではね上る。
2019..18
 水野さんから帰った直後、一気に体温が下ったが、その後再び上昇、そのまま下ることはない。熱のせいで眠れず、朝方に3、4時間眠る。

覚醒寸前、以前ローマから少し離れた中世の田舎に行った時の出来事を夢で見る。〈2人ノ日本人ガコノ村ニ泊ツタ時、夜ノ散歩ニ出掛ケタ所、オ祭ガアツテ大勢ノ人ガ酒ヲ飲ンダリ、踊ツタリシテイテ、日本人モソノ仲間ニ入ツテ御相伴ニアズカツタ。ホロ酔イ気分デ村ニ帰ツテキテ、祭ノ様子ヲ村人ニ話シタトコロ、ソノ日ハソンナ祭ハナク、カツテ中世ニハ祭ガアツタケレド今ハナイト話シタ〉実はこの2人は『芸術新潮』の仕事で行った人だったことが後日談にある。本当にあった現代の奇談。

朝食のぜんざいで、36・5度→35・8度へ一気に下る。やはり好物は万病薬なり。(急転直下の解熱は信用できないけどね)

『文學界』の清水さん来訪。彼はいつもハッとする女物のファッションで、パッと明るくしてくれる。異世界からやってきたガーディアン・エンジェルだ。

前立腺の疑いを持って、玉川病院の泌尿器科の五十嵐先生を訪ねるが、全く異常ナシ。
2019..19
 去年も同じ感覚に襲われたが、正月からまだ20日も経っていないのに随分長く経ったように感じる。すでに3ヶ月も経っているように。この遅々として進行しない時間感覚はいったい何?

熱は一向に下らない。だからといって苦しいわけではない。どこも悪くないと診断される不気味さ。

ニューヨークのWESTがぼくのデジタルテクナメーションの作品(1990年代)をテキスタイルにした作品を10点ばかり制作して販売したいとイメージとアイテム案を送ってくる。 終日依然として37度の手前を上下しながら体温は浮遊しているこの悩ましさ。
2019..20
 快晴。体調は不快也。NHKテレビ「日曜美術館」のマチスを観る。この番組に限らず、ゲストは口を揃えてベタ誉め。批評の眼があれば、批判も必要。

熱が下らないのでヤケクソで絵を描きまくる。36度台から急転直下35度台に。絵を描き過ぎて倒れ、描きまくって快癒する。「横尾さんは、いつも自分で病気を作って自分で治す、医者にとってはヤリガイのない患者」とは中嶋先生の弁。

ビデオで全国男子駅伝を観る。福島優勝。
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