知っておきたい日本の漢詩 偉人たちの詩と心 書評|宇野 直人(勉誠出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年1月26日 / 新聞掲載日:2019年1月25日(第3274号)

知っておきたい日本の漢詩 偉人たちの詩と心 書評
漢詩を知れば、日本人がわかる
日本人の繊細な感情の機微がいたるところに

知っておきたい日本の漢詩 偉人たちの詩と心
著 者:宇野 直人
出版社:勉誠出版
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「漢詩を知れば、日本人がわかる」とは、本書の帯に記されたワンフレーズだ。意外な感じがする。和歌ならともかく、中国由来の漢詩を知ることで、どうして日本人がわかるというのだろう。

そのような好奇心から手にとった本書。読み始めるとぐいぐいと引き込まれてしまった。

純粋に日本の漢詩、それも平安時代から近代にいたるまでの著名人の漢詩をセレクトして、易しく丁寧に紹介した漢詩解説本だが、とにかく読みやすくて親しみやすい。

とりあげられている詩人は、菅原道真、頼山陽、広瀬淡窓、夏目漱石など、比較的によく知られている人物から、玄人受けする一休宗純、林羅山、荻生徂徠、与謝野蕪村、寝惚先生、銅脈先生、方外道人、良寛、徳富蘇峰などに至り、昨年の大河ドラマの主人公となった西郷隆盛まで登場する。

そして何より面白いのはその内容である。著者は前書きの中で、「漢詩に現れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは〈公と正義の感覚〉ということになり」、「社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを摸索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの心情を表現する形式、それが漢詩」であると断っているが、わたしはむしろ著者の意図とは少しかけ離れたところで本書を楽しんだ。

本書を読み進めているうちに、なぜか民俗学の名著『忘れられた日本人』(宮本常一著)が思い出されたのである。現代ではすっかり姿を消してしまった昔の風俗習慣や文化、そして日本人の繊細な感情の機微が、本書のいたるところで顔をのぞかせているからである。

例えば、筑前の太宰府に左遷された菅原道真が、京都に残された家族から届いた手紙を読むという「読家書」詩。手紙に添えられたのは、紙に包んだ生姜と竹かごにつめた昆布。生姜は薬種(薬の材料)、昆布は物忌みに備えてのものである。遠い平安時代の風習が垣間見られる。ただ手紙には、残された妻子の暮らしのつらさについては一言もふれられておらず、そのためにかえって道真は悲しくなり心苦しく思う。日本人の感情の細やかさが見事によく描かれている。

また、江戸後期の狂歌師・大田南畝の「深川詞」。「侠客(若衆)の浴衣は親和染、女房の櫛巻は本多風、予め知る 一日 山開くの処、正に是れ 二軒(茶屋の名) 金落つるの中」と、年中行事の一つであった永代寺庭園の山開きのにぎわいを活写したこの詩は、まさに江戸の風物詩ともいうべき存在であろう。見物客でごった返す門前町の雑踏や書入れ時を迎えた老舗茶屋の繁盛ぶり、そして当時流行していた浴衣の染め紋様や女性の髪型まで細かく伝えてくれる。「大鳥居」「浴衣」「櫛巻」「金落つる」などの和語がそのまま漢詩に用いられている点も興味深い。これはのちに狂詩の重要な表現技法となり、それによって独特のおかしみが呼びさまされるようになるのである。

ほかに富士山、温泉、藪入り(奉公人が正月および盆の16日前後に休暇をもらって親元に帰ること)で帰郷する娘の道中を詠んだ詩などもあり、日本人の生活、文化、風俗習慣、名も知られていない昔の人々の息吹が、本書の中で甦る。
この記事の中でご紹介した本
知っておきたい日本の漢詩 偉人たちの詩と心/勉誠出版
知っておきたい日本の漢詩 偉人たちの詩と心
著 者:宇野 直人
出版社:勉誠出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「知っておきたい日本の漢詩 偉人たちの詩と心」出版社のホームページはこちら
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