検閲という空気 自由を奪うNG社会 書評|アライ=ヒロユキ(社会評論社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年1月26日 / 新聞掲載日:2019年1月25日(第3274号)

異端重視で暗い時代の突破を
第二次安倍政権発足後の「自由の阻害」の原因と背景

検閲という空気 自由を奪うNG社会
著 者:アライ=ヒロユキ
出版社:社会評論社
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 東京・永田町にある衆参の国会議員会館に入る際、民間警備員が手荷物検査で、「安倍政治を許さない」というワッペンを外せと命令したのは戦争法案のころだった。最近は、「9条」「自然エネルギー」関係のバッジもダメと言ってくる。リベラルが学風の大学でも「政治的テーマ」を掲げた集会に教室を貸し出さなくなった。四年半前、私を解雇に追い込んだ同志社大学の教授らは、私が「社会運動家」だと批判し、学生相手に「御用組合」「デマ」などの用語を使ったことを「不良教授」の根拠とした。言論を研究対象にする大学教員の表現の自由が奪われる時代である。

美術批評家の著者は、第二次安倍政権の発足後に急増した「封印ないし干渉された表現の事例」を丹念に集め、「それが徐々に線になるだけでなく、社会全体を覆う問題」であることに気付く。著者は、検閲や忖度など限定的な言葉で表すことができないとして、「NG」という多義的な言葉で代用し、俯瞰によって「自由の阻害」の共通の原因とその背景を追い、「暗い時代の突破口」を見出そうとした。

著者は全国各地のNGを「基礎的なリサーチ」で集め、美術館、図書館などの施設の責任者と圧力に抗した市民団体、個人などへの「談話取材」に基づいて分析する。
群馬県朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑や、大阪の平和施設などをめぐるNGと抵抗の記録は貴重だ。「平和・戦争」「憲法」「天皇」をテーマにした様々な展示が、「維新の会」首長などが率いる自治体や御用新聞から攻撃される実態が明らかにされる。沖縄、長崎などの平和関係施設でのNGなど、私が本書で初めて知った事例も少なくない。
また、マスメディアが自由を蝕み、大学の自由が危機にあるとも指摘する。
著者は、NGは必ずしも高圧的に排除されるわけではないと指摘、ソーシャルの活動の欠陥も取り上げる。安倍官邸、公安警察、極右集団などからの直接的な統制だけを取り上げるのでは不十分だという視点は重要だ。
民衆の中にある「不快」を嫌い、「快」を求める風潮にも触れる。安倍自公政権と御用文化人が言い続ける「安全、安心な社会」は、為政者と民衆の求める「快」に支えられていると思う。
本書では、日帝のアジア太平洋諸国への侵略・強制占領に関する「加害」責任に関するNGを多く取り上げている。著者のあとがきにある〈日本の人権上の不備について考察すると、その多くが「朝鮮」の問題に行き当たる。その直視なくして解決はあり得ない〉という見解に同意する。
〈朝鮮民主主義人民共和国(通称北朝鮮)〉〈日本列島には両国の国籍(市民権)を持つ人々がいる〉という記述が91頁にある。同共和国の通称(略称)は「北朝鮮」ではなく「朝鮮」だと思う。「両国」とは朝鮮と韓国(大韓民国の略称)を指すと思われるが、在日朝鮮人(南北分断に無関係)の国籍は朝鮮籍と韓国籍だけだ。在日朝鮮人は「無国籍」状態にある。また、「市民権」という概念は「在日朝鮮人・韓国人」には当てはまらない。
著者はNG攻撃を受ける美術館や図書館の事例を挙げた上で、〈いまの日本の展示施設に論争と干渉を受けて立ち、抗する体力と気概が少ない〉と強調する。
その上で、〈「有害なもの」が作り出すダイナミズムこそ美学であろうし、いまの社会に必要なものだ〉〈まずは言論と表現という有害なものの尊重から始まる〉と述べる。
著者による、異端的なもの、対抗的なものが生き生きと活動し、根を張っている海外の状況から学び、「忌憚のない言論表現」が多く出る「複数性の確保」を重視するべきだという提言を受け、市民みんながどうこたえるかを考え行動しなければならない。
この記事の中でご紹介した本
検閲という空気 自由を奪うNG社会/社会評論社
検閲という空気 自由を奪うNG社会
著 者:アライ=ヒロユキ
出版社:社会評論社
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