落合陽一×猪瀬直樹 日本文明研究所 第十四回シンポジウム〈特別講演・パネルディスカッション〉載録 2021年以後のニッポンを考える|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月1日 / 新聞掲載日:2019年2月1日(第3275号)

落合陽一×猪瀬直樹
日本文明研究所 第十四回シンポジウム〈特別講演・パネルディスカッション〉載録
2021年以後のニッポンを考える

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二〇一八年十二月五日、日本文明研究所の第十四回シンポジウムが行われた。「2021年以後のニッポンを考える」というタイトルで特別講演・パネルディスカッションを行ったのは、メディアアーティスト、筑波大学准教授の落合陽一氏。自身が行う研究開発について、東京オリンピック・パラリンピックが行われる二〇二〇年以降の新時代のビジョンについて、テクノロジーで解決すべき社会の現状についてなど縦横に語った。モデレーターは作家で当研究所所長の猪瀬直樹氏が務めた。その内容の一部を載録する。             (編集部)
第1回
新しい途上に、テクノロジーを模索する

落合 陽一氏
落合 
 はじめに簡単に自己紹介をします。二〇一一年に大学を卒業してからメディアアーティストを名乗り活動していますが、二〇一五年に東大で博士号をとり、その後、筑波大学でデジタルネイチャー研究室を主宰、起業したピクシーダストテクノロジーズのCEOと、二〇一七年からは筑波大学准教授と学長補佐、文部科学省の大学団体研究プロジェクト・JST CRESTクロスダイバーシティ研究代表という、現在は主に三つのポジションにいます。

研究者のキャリアとしては、「Nature Index」という、世界の科学ジャーナルに掲載された論文情報を国・機関別に収録するデータベースの「2017 JAPAN」の表紙に掲載されましたが、そこに添えられた言葉に「National reforms seek new routes to innovative success. (国家の改革に、今までと違う技術革新の成功への道筋を模索している)」とあります。日本の研究者は国に雇われる人が多いですが、それとは違う新しいルートを作らない限りこの先の日本はうまくいかないと僕は思っていて、その可能性を探り続けています。

具体的にどんなことをしているのか、研究に限らず紹介していきましょう。まずはメディアアーティストの仕事から。
例えば二〇一八年初頭には、TDKからプロモーションとして、アート作品を作ってほしいと依頼されました。僕はアート作品は、基本的にプロモーションの手段ではないと考えています。そこで、TDKにはPRや広告については言及せずに作品を作ると断った上で〝Silver Floats〟というアート作品をTDKの技術とのコラボで作ることにし、その制作過程を映像化し、広告に使っていただくようにしました。

このときは「浮く彫刻」を作りたいと思ったんです。鏡面で波源を象ったオブジェをくるくると回転させながら浮揚させることで、周囲の風景を歪めつつ波動に変えて、作品が場に溶け込んでいく、そういう彫刻です。シリコンバレーでワークショップを行っている様子や、日本の学生たちと新しい浮揚のアイデアについて話しているシーンの撮影を並行して行い、その過程をプロモーション映像としてまとめていただきました。

見ているだけでも楽しい作品ですが、それだけではありません。物体は簡単には空中に浮かない。何らかの制御がなされないと、物体は重力によって落下します。これは制御技術と3Dプリント技術を組み合わせることで実現した作品です。この辺は作家としてやっていることで、次は研究の紹介をしましょう。

実は、シーグラフ・アジア2018という学会が、十二月四日から七日まで開催されていて、僕らの研究室も、今年の研究プロジェクトのハイライトを発表します。僕たちは五〇人程の研究者の集まりです。二〇一八年は、夏にバンクーバーで開催された学会で六つ、冬に東京の学会で四つ、年間で合計十本の研究プロジェクトを発表しています。
猪瀬 
 落合くんは、いろいろな研究開発を、現実のものにしていますね。
落合 
 テクノロジーで解決できそうな社会問題があれば、分野を問わずに何でもやっていますね。僕はテクノロジーの外側では「永遠の素人」でいいと思っています。それによって型に囚われないテクノロジーを作れるし、課題を抱えた分野は当事者の方が詳しい。
例えば、現在の日本の社会状況を鑑みると、ますます進む高齢化の中で、視力が衰えた人々の増加が予測されます。その対策のひとつとして、網膜投影技術の開発を行ったりもしています。今回の学会では、レンズなしで網膜に直接映像を投影するシステムの展示を行いました。

こういうプロジェクトを年間六〇~七〇本やっていて、たまにその中に「当たり」があります。

それから、デジタルファブリケーションの研究も進めています。構造体の変形と制御を計算機シミュレーションから解き明かしていくという内容です。具体的にはロボットの関節の可動構造を、3DCGのアニメーションによって表現された動きを元に構築するわけですが、変形する3D構造を最適化計算によって形作っていくのは結構難しいんです。例えば、うさぎが耳を曲げるしぐさを、コンピュータ内のCGで動かすのは簡単です。でも、そのモデルを3Dプリンタで刷り出しても、同じようには動かない。どういう構造体にどれだけの制限のもとで外力を加えればどういう形になるのか、という構造計算をAIで解いていく必要があります。

こんにゃくは力を加えたらどの方向へも曲りますが、うさぎの耳は特定の方向にのみ曲がらなくてはいけない。同様に、人間の関節も一方向にしか曲がりませんよね。そうした骨でありかつ筋肉であるような素材を作るところから議論して、最適化計算を解くことで、ロボットの指が物を摘まむための構造をソフトで設計し、素材を元に3Dプリンタでそれをハードウェア化し、アプリケーションから操作したときにどう動くかを確かめて、初めてものになる。

一般的なラボでは、ソフトウェア上でシミュレーションをして終わりですし、ハードウェア系のところでは試作品の設計と製造だけをやります。ソフトウェアとハードウェアのどちらも駆使して実用レベルになるまでやるのが、うちのラボの大変なところであり、また面白いところでもあります。

また二〇一七年の作品ですが、超音波スピーカーから出てくる音を最適化する研究もしているんですが、そういう視聴覚装置を他の用途にも使って社会実装を目指すプロジェクトもやっています。

たとえば二〇一八年にはその成果を元に「変態する音楽会」というコンサートを行いました。指揮棒の先にモーションキャプチャ、客席に触覚技術が仕込まれていて、作曲家のイメージしたオーケストラの世界を、映像装置による演出に落とし込み、テクノロジーによって体全体で聴く音楽に仕立て上げたものです。別のバージョンには「耳で聴かない音楽会」もあります。
猪瀬 
 僕も聴きに行ったけれど、客席に白いボールのようなものを抱えている人がいましたね。
落合 
 聴覚障害を持つ方が音楽を聴くための仕組みで、白いボールの中には、触覚や振動を生み出す小型スピーカーがいくつかついていて、体で音を感じられるようになっています。

そういう文脈があって、いま興味を持って取り組んでいるのが、X DIVERSITYというJSTでやっている国家プロジェクトです。人間の身体能力の不足や低下を、いかにAIやロボティクスでサポートするか研究するもので、つい先日、乙武洋匡さんが義足を使って自力で歩行したことが話題になりましたが、その義足を開発したのも、このプロジェクトの一環です。このプロジェクトの面白いところは、全く専門分野の異なる四人からなるチームで、ワークショップを行いながら、社会実装に届くものを作っているところです。
猪瀬 
 所属も専門も別々の人が集まっていると。
落合 
 あるひとつの問題を解くために結集することもあれば、バラバラに活動することもある、という具合に進んでいるプロジェクトです。
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この記事の中でご紹介した本
ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法/KADOKAWA
ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法
著 者:落合 陽一 、猪瀬 直樹
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
「ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法」出版社のホームページはこちら
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