佐藤りえ『フラジャイル』(2003) キラキラに撃たれてやばい 終電で美しが丘に帰れなくなる |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年2月5日 / 新聞掲載日:2019年2月1日(第3275号)

キラキラに撃たれてやばい 終電で美しが丘に帰れなくなる
佐藤りえ『フラジャイル』(2003)

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美しが丘という地名は全国にみられるが、この歌で詠まれているのは横浜市青葉区の美しが丘だろう。イギリスの田園都市をモデルに、東急電鉄によって開発された多摩田園都市の一画。最寄り駅は東急田園都市線たまプラーザ駅。1977年(昭和52年)に渋谷駅への乗り入れが始まり、1982年(昭和57年)には駅前に東急百貨店がオープンして急速に発展した。その名前からして「作り物のニュータウン」というイメージにあふれているところが、逆にキャラが立っている地名だ。それだけに「キラキラ」や「やばい」といった俗語を駆使した口語体がむしろ似つかわしいものになっている。下手に歴史のある地名だったらこれは成り立たない。

この歌に出てくる終電はたぶん渋谷駅発なのかなと思えてしまうのは、「やばい」という俗語のせいだろうか(ちなみにたまプラーザ駅に停まる渋谷駅発の終電は0時32分)。「やばい」という語そのものは意外と古いが、肯定的な意味での用例が『現代用語の基礎知識』に紹介されたのは2001年。それとほぼ同じ時期にこの歌は登場している。短歌における俗語の導入は一般的になってきているものの、浸透にはいささか時間がかかるのが実情だ。軽やかに、しかし切実さをもって「やばい」が高らかに歌われたエポックとしてこの一首があるのではないかと思うし、そしてその背景には東急田園都市線という路線が持つ風土と歴史的意味合いが大きく関係しているだろう。
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