復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡 書評|内尾 太一(東京大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年2月2日 / 新聞掲載日:2019年2月1日(第3275号)

学問の公共性に切り込む
震災からの5年間を描いたエスノグラフィー

復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡
著 者:内尾 太一
出版社:東京大学出版会
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社会と積極的な関係性を育む学問は可能であるか。この問いに、筆者が真っ先に思い浮かべるのは、環境民俗学の菅豊が著した『「新しい野の学問」の時代へ――知識生産と社会実践をつなぐために』(岩波書店、2013年)であった。菅は、新潟県中越地震で調査地が被災したことを契機に、アカデミックの外にいる人びととともに知識を生産し、社会的な実践につなげる「新しい野の学問」を提唱したのだった。

それから5年。災害研究は、被災者/被災地貢献を可能にするような公共性を持ちうるかという観点から、文化人類学の内尾太一が学問の公共性に切り込んだ。

公共人類学に導かれ、NPO法人「人間の安全保障」フォーラム(HSF)の支援者として、東日本大震災で被災した南三陸という野=フィールドに分け入った内尾は、支援を調査につなげ、その成果を本書に結実させた。被災地とかかわる視点や立ち位置は大きく異なるが、震災からの5年間を描いたエスノグラフィーは、粗削りながらも、菅の「新しい野の学問」を連想させる。

内尾は、災害における人間の安全保障(生存・生活・尊厳)のなかでも、「当事者の主観を多分に含む尊厳」に照準をあて、復興をめぐる時間のなかで順々に浮かび上がってきた3つの問題から、「災害下での人間の生のあり方」を考察していく。

第一は、支援の過剰とその継続の問題である。被災者にとって、一方的で匿名的な支援=贈与は負債になり、自己の「矮小化」という副作用をもたらすこともある。内尾は、震災発生から2年を過ぎたころから、「与えられたものを食べて、与えられたものを着て生きていくだけなら私らは家畜と変わらない」、被災者のイメージは「通常の人よりもランクが下」という言葉を聞くようになる。被災者と支援者という非対称な関係をいかに乗り越え、被災した人びとが尊厳を回復しうるのか。内尾はこの問いの答えを現場レベルで手探りし、支援という贈与に対する返礼は、被災者が被災者であることを脱し、尊厳を回復するための重要な行為になることを示していく。

第二は、復興事業の主体をめぐる問題である。巨大防潮堤建設が既定路線で進められる状況下では、建設に賛成であれ反対であれ、その地に生きていく人びとは決定権を持ちえない。だが、現実の復興で主役になるのは住民でなくてはならない。そこで内尾が注目するのが、「南三陸町椿物語復興」による物語復興である。巨大防潮堤建設を受容しつつ、他方で自分たちの望む復興を、震災前には沿岸部に原生し、震災後も塩害に負けずに生き残った椿に象らせるのである。椿を津波防災に活用し、復興まちづくりの「縁」にする人びとの実践に、内尾は、人びとの主体性と地域の固有性を回復する、いわば「尊厳ある復興」のかたちを見るのである。

第三は、死者の尊厳についての問題である。被災者が復興者へと移行し、慰霊や教訓の継承をはかるなかで、死者の尊厳を生者に引き付けて理解する試みが始まる。南三陸町では多数の犠牲者が出た防災対策庁舎を震災遺構として残すか解体するかが議論になり、最終的には20年間の県有化による管理・保存が決まった。この過程は、「災害がもたらした死に安定した解釈が与えられていく漸進的な過程」と位置付けられる。加えて、死者は被災後の共同体を構成する一員として、遺族を結びつけ、遺族の生を成り立たせる役割を果たすのであり、こうした関係を豊かに言語化していくことが、人間の安全保障を発展的に議論することにつながるのだと論じられる。

東日本大震災後も大きな災害が相次いでいる。災害下における人間の安全保障にとって、尊厳を保ちつつ、被災後の人びとの生存と生活が守られることがいかに重要か。国や自治体をはじめ、「復興」や「復興支援」の看板を掲げる人びとに読んで欲しい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
復興と尊厳  震災後を生きる南三陸町の軌跡/東京大学出版会
復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡
著 者:内尾 太一
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡」出版社のホームページはこちら
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