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更新日:2019年2月8日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

日本人は、何を、何のために、どのように食べてきたのか? 『日本の食文化』(全6巻、吉川弘文館)刊行開始

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第2回
お餅とご飯ー食の民俗文化史の中にみる歴史的重層性

正月料理の地域差についての話題といえば、お餅の形状が丸餅か角餅か、雑煮はみそ仕立てかすまし汁か、年取り魚は鰤か鮭か、などが定番である。そうした日本の西と東の比較はたしかにおもしろいし、そこにも餅の歴史が刻まれている。しかし、よく注意してみると、もう一つ、正月のごちそうが、お餅なのかご飯なのか、という重要なテーマも隠れている。

年越しの白米飯と正月の餅

勤務先の国立歴史民俗博物館の共同研究でいま、「高度経済成長と食生活の変化」に取り組んでいる。一九六〇年前後に文化庁が行なった「民俗資料緊急調査」の読み直しなどで、食生活について注目されることの一つが、米が作れないような山間部の村落でも、年越しのおせちの膳には白米飯と年取り魚が必ず必要だという報告が少なくないことである。大正から昭和の日本各地の生活をよく観察していた柳田國男も、「米のやや乏しい雑食の村々でも、必ず年に幾回かの米の飯を食べる日がある。元旦には餅の雑煮を祝うという家が、現在はもう大多数になっているが、その前宵の年越の「おせち」には、米を炊いだ食膳を神に供え、一家眷属一様に同じもので年を取ることには例外がない」(柳田國男「食物と心臓」『柳田國男全集』一七・ちくま文庫・一九九〇(一九四〇)年)と述べている。正月に餅の雑煮を食するようになってきた中でも、年越しの「おせち」の膳では白米飯で年取りをするという伝承が残っていたことに注意しているのである。今日では、正月といえば餅がハレの食の代表と考えられているが、それ以前のことをよく調べてみると、おせちの白米飯と年取り魚が、正月のごちそうだったことがわかる。

神饌にみる米と餅
すし切り祭りの神饌「ふなずし」
神社の神饌に米は欠かせない。

たとえば、滋賀県の村々では正月年頭にオコナイと呼ばれる伝統行事がある。そのとき、実に大きな餅が搗かれて神前に供えられる。しかし、よく見ると、餅とともに「ゴクさん」と呼ばれる白米を蒸して成形したお供えも多くの場合一緒に供えられている。餅と米とがセットになっているのである。

日本各地の神社の祭礼や正月年頭の行事では、白米がもっとも重要なお供えとされている。そして、そのお供えのかたちには、米、蒸し米、粢、餅などといった違いがあるが、それは実は、米の調理の歴史の上での変遷と伝承のその過程を物語っているのである。

第2巻「米と餅」を編集するなかで、あらためて食をめぐる生活伝承の中には、古い要素と新しい要素とが混在しながら伝えられており、米と餅の民俗伝承の多様性の中には、旧来の食の伝承を保存していこうとする力が思いのほか強く働いているということが注目された。民俗伝承の多様性の中に歴史変遷の段階差が刻まれているという、いわば食文化の歴史的な重層性を説明しようとしているのが、本シリーズの一つの特徴である。(せきざわ・まゆみ=国立歴史民俗博物館教授)
この記事の中でご紹介した本
日本の食文化 1 食事と作法/
日本の食文化 1 食事と作法
著 者:小川 直之
出版社:
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本の食文化 1 食事と作法」出版社のホームページはこちら
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