小泉純一郎ロングインタビュー(聞き手=佐藤嘉幸) 総理大臣が「原発ゼロ」を訴えれば反対する勢力はいなくなる 『原発ゼロ、やればできる』(太田出版)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月8日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

小泉純一郎ロングインタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)
総理大臣が「原発ゼロ」を訴えれば反対する勢力はいなくなる
『原発ゼロ、やればできる』(太田出版)刊行を機に

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東日本大震災から、間もなく八年が経とうとしている。
福島第一原発が引き起こした原発事故は、国の根幹を揺るがす危機的状況であったにもかわらず、未だ〈原発推進〉に拘る人々がいる。
そんな状況を前にして、小泉純一郎元首相が、『原発ゼロ、やればできる』(太田出版)を上梓した。
〈原発推進〉から〈脱原発〉へ、なぜ小泉氏は大きな転換をしたのか。お話を伺った。
聞き手は佐藤嘉幸氏(筑波大学准教授)にお願いした。     
(編集部)
第1回
なぜ脱原発ヘと態度を変更したのか

小泉 純一郎氏
佐藤 
 『原発ゼロ、やればできる』を読ませていただきました。明快な語り口で、一読すれば「原発推進」などとは誰にも絶対に言えなくなってしまうような本です。しかも、非常にポイントを絞って書かれている。第一に、「原発は安全で、コストが安く、クリーンなエネルギーである」という経産省の説明が完全に誤りであることを、一つずつ綿密に証明されている。第二に、原発なしで電力はまかなえるのか、という論点についても、原発に代わる自然エネルギーの可能性を、ご自身が実地で得られた経験を元に、非常に詳細かつ具体的に説明されている。まさに原発推進を主張する自民党の支持者にこそ読んでもらいたい本です。保守を自認し、首相経験者である小泉さんが明確に脱原発を主張されたこの本を読めば、原発再稼働や新たな原発の建設などもう誰にも主張できなくなるのではないか。そんな感想を持ちました。

まず、多くの方々が小泉さんにお聞きしたいと思っている点についてお伺いしたいと思います。小泉さんは、首相在任中には原発を進める立場だった。「原発推進は正しいと思い込んでいました」と、本にもあります。しかし今は、推進派の言うことに騙されていた、と「強い憤り」を感じておられる。そして現在は政治家を引退されて、脱原発の「市民活動」に強く関わっておられます。元首相が脱原発の市民活動を推進しているという例は、世界的にも極めて珍しい例です。どうしてここまで劇的に態度を変えられたのか。何が一番のきっかけだったのか。やはり、東日本大震災後の福島第一原発事故の衝撃が大きかったということでしょうか。
小泉 
 おっしゃる通り、一番大きかったのは二〇一一年三月にあった大震災ですね。地震、津波、そしてメルトダウン。あの事故の状況を連日見ていて、「原発=安全」という神話が脆くも崩れ去ってしまったのでね。それから、原発関連の本を数えきれないぐらい読んでみた。勉強すればするほど、こんなものは日本でやっちゃいけない、という確信を持った。しかし、総理の時に、なぜこれほど単純なことがわからなかったのか。自分自身、悔しくてしょうがなかった。もちろん、騙された方が悪い。ただ、「あやまちを改めざる、これをあやまちという。あやまちを改むるに、はばかることなかれ」という言葉がある通り、間違いに気づけば、それを反省して、改めていかなければいけない。多くの人が信じていたことを私も信じて、「原発は必要だ」と言っていた。しかし、原発なんて絶対に続けていちゃいけない。騙された当人が「間違っていた」と声を大にして言うんだから、その方が説得力があると思ってね。それでこの本を書いたということです。
佐藤 
 福島第一原発事故は、より大きな悲劇的結果を生み出していた可能性もありました。最悪の場合、東北から首都圏まで、人口で言えば五〇〇〇万人程度が避難しなければならないという可能性もあった。そうしたことを認識された上で、原発を推進していては国が潰れてしまうんじゃないか、という危機感を持たれた。そう考えていいでしょうか。
小泉 
 あの時もう一基、福島第一原発の原子炉が破壊されて、メルトダウンを起こし、放射能が拡散されていたら、半径二五〇キロ圏内に住んでいる人たちが避難しなければならなかった。そこには東京も含まれるし、避難民の数は約五〇〇〇万人だと予測される。それだけの国民が避難する場所なんてないんだ。仮にそうなれば、日本という国は壊れてしまう。だから、原発っていうのは、絶対に事故を起こしちゃいけない産業なんです。ところが、事故のない科学技術はない。いつかは事故が起きる。原発の場合、一度事故が起こったら、ふるさとが、国がなくなってしまう。そういう産業だから、絶対にやっちゃいかん。そんなことを考えて立ちあがった。しかも、他の国と比べても、地震、津波、火山の噴火、日本はいろんな自然災害が起こる、とても脆弱な国なんです。人口も密集している。だから、いったん事故があれば、非常に大勢の避難民が出てしまう。

原発事故があったときは民主党政権だったけれど、事故後、政府に原発事故調査・検証委員会が設置された。委員長の畑村洋太郎さんが、最終報告書で、こんなことを言っている。「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる」。つまり、事故のない産業はない、事故を起こさない技術、機械はない、ということなんだ。

あの時は、政府に設置された委員会とは別に、国会でも、与野党全会一致で事故調査委員会が設置された。その委員長を務めたのが、東大名誉教授の黒川清さんだった。事故の翌年出された報告書を読んで、ますます原発は駄目だと思うようになった。黒川委員長にも直接会って聞いたんだ。「あれは天災だったのかどうか」。黒川さんは、はっきりと言ったな。「天災ではない。人災です」と。報告書でもそう断言されている。原発事故の根源的な原因は、監督、規制する側の経産省と、規制される側の電力会社、この立場が逆転してしまったことにある。経産省が電力会社に取り込まれた結果、立場がひっくり返ってしまった、と書かれている。そのことは、新聞でもあまり報道されなかった。経産省は、完全に電力会社の虜になってしまっていたんだと思う。恥ずかしいことだ。監督、規制する立場を自ら放棄した。それでいて、未だに懲りずに原発を推進しようとしている。憤慨に堪えない。
佐藤 
 まさにその怒りが、本の中からも伝わってきます。福島第一原発事故のような過酷事故が起こったにもかかわらず、経産省と安倍政権は原発を推進し続けている。それは彼らが、事故が住民と環境に与えた大きな影響をまったく省みず、これまでの原発推進政策を反省しようともしないからだと思います。
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この記事の中でご紹介した本
原発ゼロ、やればできる/太田出版
原発ゼロ、やればできる
著 者:小泉 純一郎
出版社:太田出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「原発ゼロ、やればできる」出版社のホームページはこちら
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