小泉純一郎ロングインタビュー(聞き手=佐藤嘉幸) 総理大臣が「原発ゼロ」を訴えれば反対する勢力はいなくなる 『原発ゼロ、やればできる』(太田出版)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月8日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

小泉純一郎ロングインタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)
総理大臣が「原発ゼロ」を訴えれば反対する勢力はいなくなる
『原発ゼロ、やればできる』(太田出版)刊行を機に

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第5回
脱原発と自然エネルギーへの転換は政治主導で

佐藤 
 小泉さんは、日本やドイツをはじめとして様々な自然エネルギー施設を見学されています。例えば本の中でも、日本のケースを紹介しつつ、農業と太陽光発電とは両立可能であり、そうしたやり方をもっと広めていくべきだ、とお書きになっています。
小泉 
 千葉県の匝瑳市で今、ソーラーシェアリング発電というのをやっている。そこに見学に行ったんだ。農家の畑の上に、三メートルぐらいの支柱を立てて、その上に、一間ぐらいの幅のソーラーパネルを並べる。下では農作物を育て、上は太陽光で電気を作り供給する。両方の売上げが見込める。実際に、それをやっているのを見たんだ。「畑の上にパネルなんて並べたら、光が当たらなくなって、農作物の成長を妨害するんじゃないか」と訊いたら、「そうではない。逆に、太陽光を浴びすぎると、生育によくない。適度に日陰になる方がいい」と言うんだ。大企業が普通にやっている太陽光発電だと、地面の上にパネルを並べるから、下は雑草が茂ってそれを刈るだけでも大変だけれど、匝瑳市の農家の場合、農業と太陽光とが両立できる。これは、まだ田んぼでは行われていない。仮に日本全国の田んぼでソーラーシェアリングをやったら、十分な電気が供給できる。しかも農業と両立する。どんどん進めていったらいいと思うね。日本は、そういう可能性のある国なんだ。
佐藤 
 日本は自然に恵まれていますから、可能性は十分ありますね。
小泉 
 太陽と水と風と、非常に恵まれている。ドイツに視察に行ったら、それに加えて、木くずや、馬や牛の糞といったバイオマスも利用して、発電をしていた。だから今や、自然エネルギーによる電源供給の割合が三〇%を越えた。ドイツに比べれば、日本は自然エネルギーに本当に恵まれている国だから、その気になれば、すぐに三〇%なんて実現可能だと思うね。
佐藤 
 日本の場合、今おっしゃったように農業とも両立できるとなれば、ソーラーシェアリングは爆発的に広まる可能性があります。また、耕作放棄地もありますし、そういう場所を有効に使うこともできる。さらに、日本は海に囲まれているので、洋上風力発電も含めて、風を使った風力発電も容易です。様々な面で自然エネルギーに恵まれている国です。日本でも東日本大震災以後は、FIT(固定価格買取制度)の導入によって自然エネルギーの開発が進んできていますが、これを政治の力でもっと大きく育てていくことが必要だと思います。
小泉 
 一番いい方法は、まずは「原発ゼロにしよう、自然エネルギーを支援しよう」と政府が宣言することだ。太陽光発電にしても風力発電にしても、曇ったらどうするのか、風がやんだらどうするんだ、とさんざん言われてきた。でも今は、蓄電技術が発達してきている。また技術革新によって、風車にしてもソーラーパネルにしても、段々小型化され、改良化されてきているから、設置する場所だって広がっている。だから、政府さえきちんと方針を立てれば、企業もいろいろ知恵を出しますよ。もちろん国民は協力する。そうやって考えていけば、非常に夢のある産業発展ができると思うね。
佐藤 
 原自連の「原発ゼロ法案」でも打ち出されていたように、国がエネルギー協同組合の設立を支援して、それが中心となって自然エネルギーを推進していけば、さらに可能性が開けてきます。そうしたことも、政治の役割の一つだと思います。
小泉 
 そこは、政治が後押ししないといけないね。大きな可能性が眠っているんだから、どんどん支援していくべきなんだ。事故前はたった二%だった自然エネルギーが、去年の時点で一五%まで増えた。大した推進もしていないのにだよ。政治がもっと支援していけば、あっという間に目標の数値は達成できる。
佐藤 
 私がこの本でもう一つ感銘を受けたことがあります。原発が「潜在的核抑止力」になるという議論を、小泉さんは明確に否定されている。次のように書かれています。「私には、この理屈がさっぱりわかりません。どんなに潜在的な能力があっても、将来、日本が核武装などできるわけがないからです。むしろ、日本にはその潜在的な能力があることで周辺諸国が軍事的な脅威を感じてしまい、緊張緩和や核軍縮の流れを邪魔している面もあるといえるでしょう」。
小泉 
 当然のことを言っているだけなんだ。第一、仮に核兵器を持っていて、何のプラスがあるのか。「核抑止力を持たなければいけない」と言うけれど、それでどうするのか。核実験なんてできるわけがないし、国民も核武装を認めるはずがない。もちろん一部には、「日本も核兵器を持つべきだ」という意見があることはある。けれども、核兵器を持つための費用を考えても無駄だし、持っても何のプラスにもならない。むしろ核兵器を持たなくてもやっていける国造りを目指す方が、世界の見本となれる。例えば、自然エネルギーで三〇%程度の電力を賄うことは容易にできる。さらにこれを進めて、一〇〇%自然エネルギーでやっていける国を目指せばいい。三〇年かかろうが、五〇年かかろうが、一〇〇年かかろうが、まずはそれを目指していく。日本はそれができる、そういう可能性を持った国だと思うね。
佐藤 
 原発をゼロにすることは、安全保障の面でもプラスに働く、と本にも書かれています。原発はテロの対象になる危険もある。さらに、エネルギー安全保障の観点から考えても、エネルギーの自給自足を可能にする自然エネルギーに移行していくことの方が余程望ましい。
小泉 
 テロの可能性は否定できない。それ以上に、地震、火山の噴火、津波、自然災害が多い国だ。それで福島は酷い目に遭った。自然災害は止められないから、これに対する危険性を持った産業はなくしていった方が、安全保障にもなる。
佐藤 
 しかも、自然エネルギー立国になれば世界の見本になるわけですから、政治的にも、経済的にも、そちらの方により可能性があります。
小泉 
 そういう展望があるにもかかわらず、今の日本は遅れているんだ。太陽光発電や風力発電に関しても、世界の中で後進国になってしまっている。
佐藤 
 なおかつ、自然エネルギーの発展を意図的に遅らせている面もあります。
小泉 
 原発産業が、原発をなくしたくないんだな。
佐藤 
 利益誘導を以前のように続けていきたい、という勢力があるのだと思います。もう一点、また別の話題になりますが、脱原発というテーマは選挙の争点になりにくい、ということに本で言及されています。
小泉 
 それについては、そんなに悲観的には考えていない。いずれ政治的な争点になっていくんじゃないか、と私は思っている。原発ゼロでやっていけることがわかっている国民は多いからね。原発がどうしても必要だという人はそれほどいない。原発産業に携わっている人は別だけれど、全体を考えれば、自然エネルギーでやっていこうという思いの方が強いと思う。
小泉 それなのに、経産省はまだ原発を作ろうとしており、原発エネルギーの比率を上げようとしている。あれだけ福島で懲りたはずなのに、今度地震や津波が起こったらどうするのか。またメルトダウンを起こす可能性もある。仮にテロが起こったら、対処できるのか。アメリカのニューヨークのツインタワーも、民間機を乗っ取られて突っ込まれた。同じようなことが原発に対して行われたら、街ごと、いや地方ごとなくなってしまう。原発っていうのは、自国に向けた原爆のようなものだよ。そのことを考えただけでも、一日も早くなくしていかなければならない。
佐藤 
 最後に、一点お伺いします。総理大臣が「原発ゼロ」を先頭に立って明言すべきである、と本の結論で書かれています。脱原発は、福島第一原発事故以後、最優先の政治的課題だと思います。福島第一原発事故のような大惨事を真剣に受け止めることこそが、いま政治に求められているのではないでしょうか。国民はこの事故をかなり真剣に受け止めていると思います。要は、政治が脱原発をどう実現していくことができるか、という点です。具体的な展望を、一言お聞かせいただけないでしょうか。
小泉 
 難しい問題じゃないんです。きわめて簡単なことなんだ。もう一度言います。時の総理が「原発ゼロにしよう」といえば、国民から大歓迎される。そうすれば一気にできる。電力会社だって、原発にこだわって、最後まで抵抗するかどうか。そういう考えを持つ人は少ないと思う。原子力に携わってきた人が既得権としてそれを手放したくない、という気持ちはわかるけれど、それは極めて少数派でね。そういう抵抗を、政治が乗り越えられないはずがない。むしろきちんとした方向性を出せば、原発維持のままでいこうという人たちも理解してくれる、と思っている。

私は安倍さんにも言ったんだ。総理大臣として、こんないいチャンスはない。「原発ゼロにしよう」と言ってみろ、そうすれば反対する勢力はいなくなる。今は、総理が原発推進を公言しているから、自民党の議員は黙ってしまっている。しかし総理が「原発ゼロ」を訴えれば、反対する者はごく少数で、ほとんどの議員がこちらにつく。野党も反対しない。国民は支持する。与野党協力ができる。こういう時期が来ているんだ。そのチャンスを見逃しているのは、本当にもったいない。総理の仕事として、「原発ゼロ」に国民が協力できる、与野党が協力できるチャンスが来ているにもかかわらず、それに目を塞ぐ。だから「判断力が悪いな」と、いつも言っているんだ。
(おわり)
(二〇一九年一月一六日、城南信用金庫本店にて)
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この記事の中でご紹介した本
原発ゼロ、やればできる/太田出版
原発ゼロ、やればできる
著 者:小泉 純一郎
出版社:太田出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「原発ゼロ、やればできる」出版社のホームページはこちら
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