文系と理系はなぜ分かれたのか 書評|隠岐 さや(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年2月9日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

文系と理系はなぜ分かれたのか 書評
知の世界への誘い
大学にとって理想的な展開を求めて

文系と理系はなぜ分かれたのか
著 者:隠岐 さや
出版社:講談社
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高校1年の9月、担任教師から「2年になると理系、文系クラスに分かれるから、考えておきなさい」と言われた。

大学入試の受験科目が文系、理系を規定するらしい。わたしは高校2年、だから17歳で私立文系コースに身を置き、大学入試科目に直結する英語、国語、社会の勉強に励んだ、というよりも暗記に精を出した。

このときの私立文系仲間には、経済学部で数理経済学がさっぱりわからず雀荘で学費を稼ぐヤツ、文学部社会学科でフィールドワークを集めたデータを統計が理解できないためほったらかしにて雀荘でバイト代を散財するヤツがいた。その受験生や学生時代の彼らにすれば、文系理系はどうでもよいことだった。しかし、社会に出てから、景気の悪化でリストラを余儀なくされそうになったとき、「理系だったら技術者としてツブシが利いたのに」と嘆くことになる。

わたしも似たようなもので、仕事で必要に迫られて30代、40代で中学、高校の数学の参考書をひっくり返したものである。わが身のこんな勝手な生きざまを振り返ると、『文系と理系はなぜ分かれたのか』を、若いときに読むことができれば良かったのに。そう思ってしまう。

もっとも同書はやさしい語り口調で書かれているが、高校生が読むにはすこし難解かもしれない。でも、見栄っ張りで知識を吸収するために背伸びしたい10代後半である。高校の進路指導教諭に解説してもらえば理解できる。教師が進路に悩む生徒に勧める本として好著だ。それは、同書で、文系と理系がシステマチックに分類され進路を指南しているからではない。そもそも学問はこんな歴史で成り立っている、学んでみるとメチャおもしろいよ、という知の世界への誘いが示されているからだ。そこには、受験科目のような文系、理系の区別はない。文学を読んでいたら、物理、化学の世界に興味を持ってその基礎を知りたくなった。それには微分積分の基礎をマスターしなければならない。受験勉強のようにいやいや覚えるのではく、知りたいからという欲求によって、文系も理系も関係ない世界が生まれてくる。これは大学にとって理想的な展開であり、学生にすれば将来、役に立つ。もっとも、大学で学生がそこまで知を探究できる教育を行えるか。永遠の課題であろう。

ところで、同書では文系、理系の分類が社会にどのように受け止められているかを、たとえば、産業界の要請に基づく「儲かる理工系」いう事例、理工系分野での男女差が生じるジェンダーという観点から考察している。そこは厳しい現実といい加減な幻想が入り混じった世界であることを教えてくれる。

また、著者はこんな警鐘を慣らしている。日本が大学院重点化構想、科学技術立国へ向けての政策などで、人文社会科学系より理工系、つまり文系よりも理系の分野で研究者養成を重視した。その結果、「『目先の目標のため批判勢力が封じ込められてきた』歴史につながっているようにみえる」「利便性を追求する『科学技術』に無邪気に信頼を寄せるような人ばかりが求められてきた」と評している(110ページ)。

ここでいう「利便性」には、たとえば、戦争に勝つためのもっとも効率的な手段、エネルギー問題を解決するための永久的な方策、具体的には、軍事兵器と原発の開発がある。これらは理系の最先端分野によってもたらされたが、原発事故、ミサイルで人体損傷や環境破壊が起こった。これは歴史が証明している。戦争勝利、エネルギー確保という「目先の目標」で、とんでもない災難がふりかかる、間違えれば人類が滅亡してしまう状況を、作らないために、文系の政治学、法学、思想、哲学、文学など文系の知をしっかり機能させるべき。著者はこう訴えたいのではないか。

文系、理系それぞれにさまざまな役割はある。これらは別個で追究されるものではなく、情報交換は常に行わなければならない。互いに良いところをリスペクトする。悪いところを批判する、という姿勢を持ち続けてほしい、という読後感を持った。(こばやし・てつお=教育ジャーナリスト)

この記事の中でご紹介した本
文系と理系はなぜ分かれたのか/講談社
文系と理系はなぜ分かれたのか
著 者:隠岐 さや
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「文系と理系はなぜ分かれたのか」出版社のホームページはこちら
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