ロシア革命 ペトログラード1917年2月 書評|和田 春樹(作品社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年2月9日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

ロシア革命 ペトログラード1917年2月 書評
新たな視座を打ち出す―「三段階革命説」
逆説の関係としてのロシア革命とソ連

ロシア革命 ペトログラード1917年2月
著 者:和田 春樹
出版社:作品社
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 著者の和田春樹は、内外で知られてきた有数のロシア・ソ連史家であり、ロシア革命史研究は、和田のライフワークであろう。本書のモチーフは、和田が研究者として出発した頃にすでに形成されており、本書はその総決算である。単に「ロシア革命」というメインタイトルだけに注目するのであれば、この事象に関心を覚える読者は、五百頁を超す本書の分厚さからも、反射的に「二月から十月へ」というドラマチックな過程を想起するかもしれない。しかしサブタイトルをみれば、そして本書を紐解いてみると、序論部分を別にすれば、詳細な記述は帝政が崩壊した二月革命に集中していることがわかる。もともと和田の関心は、二月革命にあった。

本書では、革命の序幕としての第一次世界大戦の勃発と帝政の危機の中で、ラスプーチン暗殺にみられるような宮廷革命路線や軍事クーデタ路線、そして国会(ドゥーマ)を中心としたブルジョア市民革命路線が胚胎していくことがふまえられたうえで、一九一七年二月の首都ペトログラードにおける民衆、労働者のデモやストライキの動向が克明に記述されていく。ブルジョア市民革命路線といえども、結局、民衆の支えなしには成功しない。

従来、二月革命の発端は二月二三日にはじまる労働者の自然発生的な「パンをよこせ」デモやストとされてきたのに対し、和田は、むしろそれに先立って第四国会第五会期の開会日である二月一四日に専制打倒を呼びかける国会への行進が「労働者グループ」によって呼びかけられ、それが弾圧されたことに発端が求められるとする。左翼諸党派は街頭行動に及び腰であり、当日、八万人が参加したとされるストライキは、最左派のボリシェヴィキの制止をすら振り切って行われたが、国会行進、デモは警備隊に阻止された。その際、国会行進派の急先鋒で激烈な政府批判を展開したのが、国会議員の、あのケレンスキーであったという。

和田のロシア革命史観は、レーニンとボリシェヴィキの役割が過大視されていたソ連の公式史観「大十月社会主義革命」説とはだいぶ異なっており、そもそも二月革命を導く際にボリシェヴィキ党はいかなる決定的な行動提起もなすことができなかったという。

和田によると二月革命は反戦・反軍の民衆革命でもあったが、二月革命の「英雄」ケレンスキーは戦争をやめることができず、ソヴィエトでは臨時政府を信任しない左派が多数派を握り、十月革命が起こった。その場合でも、実際にはレーニンが望んだような武装蜂起で臨時政府が倒されたのではなく、ソヴィエト議長であったトロツキーが中心となってソヴィエトの防衛体制を固め、臨時政府が無力化することで十月革命が実現されたという。

このように「十月武装蜂起」の物語は本書で脱神話化されているが、だからといって、ソ連解体後に支配的となった十月革命=破局説に、和田が転じたわけではない。十月革命は、二月革命に表れた労働者・兵士の革命のユートピアの高まりの頂点で起こった出来事であり、世界戦争の終結を願ったが実現できず、しかし軍隊の民主化を徹底的に実現し、二月革命で始まった反戦反軍・平和の革命を完成するものであったという(この意味でロシア革命は、人類の希望の灯であり、「世界を震撼させた」とみる)。こうした見地をとる場合でも、和田にとっては、トロツキーのような十月革命勝利史観とはまた異なり、二月革命こそが根源的な革命であった。

本書の大部分は二月革命の記述に割かれているにしても、本書の最初と最後に触れられている和田による新たな見地とは、十月革命後の「レーニンによる第三革命」説である。つまり、ロシア革命は、民衆が望んだ平和で軍隊のない社会を作り出すことができず、政府を握ったレーニンは、ボリシェヴィキが多数派を握れなかった憲法制定会議を強硬解散し、社会主義の名においてクーデタを決行し、労農赤軍を結成し、革命戦争に突入し、ロシア帝国に代わるソ連を生み出した。ロシア革命とソ連との関係は、順接ではなくむしろ逆説の関係となっている。

こうした見地は、二段階革命論でもなく永続革命論でもなく、三段階革命説と言うべきなのか。ロシア革命という、論じつくされてきたかのようなテーマは、実は古くて新しいテーマであり、新たな視座を打ち出してくる和田の力量には、いつもながら圧倒される。評者の私自身は、歴史家ではないので、専門的見地からすれば、和田のかつての同僚や弟子筋の歴史家達から、細部に関しては建設的異論、対論もあろうが、歴史学の門外漢の私からみた場合、ピント外れと承知しつつも、本書を読んで思い出したのが、作家で従軍記者でもあったワシーリー・グロースマンの『万物は流転する』などに出てくるロシア革命と自由に関する文学的考察であった。グロースマンにとってロシア革命とは、民衆の自由を求める革命であり、それは『人生と運命』に登場する「大祖国戦争」下のスターリングラードの将兵達の「戦後」へのユートピア的期待(党とエヌカーヴェーデーのいないソヴィエト)などにも再現されるが、戦勝の余韻も冷めやらぬうちに晩期のスターリンは、ヒトラーから奪い取ったがごとく「反ユダヤ主義」の大鉈を振るい始める(死去で中断するが)。社会主義は世界システムとしてのみ可能とプレハーノフは言ったとされ、戦争の世紀にあって、戦争と軍のない自由な社会は、一国単位では挫折を余儀なくされていったのだろうし、かつてベルジャーエフが強調していたロシアの二律背反、矛盾撞着、「ロシア国民は、国家的専制とともに無政府的な自由を愛する民族」を今後も噛み締めなければならないと思うに至った。(しぶや・けんじろう=神戸大学教授・ロシア法)



この記事の中でご紹介した本
ロシア革命 ペトログラード1917年2月/作品社
ロシア革命 ペトログラード1917年2月
著 者:和田 春樹
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ロシア革命 ペトログラード1917年2月」出版社のホームページはこちら
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