タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源 書評|ピーター・ゴドフリー=スミス(みすず書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年2月9日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源 書評
心とは何か、知性とは何か
タコを鏡にして、ヒトの心や知性にまで迫る

タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源
著 者:ピーター・ゴドフリー=スミス
出版社:みすず書房
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 海の生物の、心や知性について書いた本だ。
しかし対象となる生物は、なんとタコである。イルカや、せいぜい魚の、心や知性についてなら興味ある人も多いかもしれない。しかしタコの心身問題などに関心を持つ人が、どれだけいるのだろうか。ところが、読んでみると、とても面白い。タコ(やイカなどの頭足類)について書かれているのだが、タコの話で終わらずに、タコを鏡にして、ヒトの心や知性とは何か、ということにまで迫っているのだ。
まずタコは神経細胞の数が驚くほど多い。犬と同じくらいある。何を考えているのだか、そもそも何か考えているのかすら分からないようなタコだが、犬レベルの知性があるのだ。しかも我々ヒトを含む脊索動物では、脳という「中央集権」のような仕組みになっているが、タコは「分散型」で「身体のなかが神経で満たされている」。体全体で考えているのだ。つまり、脳と身体とか、脳と心とか、そういう対比とは別の「心身問題」を持った生き物なのだ。生物の進化は、ヒトへと至る道とは別に、タコの身体のような、もう一つの心や知性の世界があったのだ。
「大規模な神経系に関する「進化の実験」は、脊椎動物の側と、無脊椎動物の側で独立して行われた」(234ページ)

脊椎動物の進化の頂点がヒトだとしたら、無脊椎動物の側の進化の到達点がタコであったという訳だ。
ところで、この本の著者ピーター・ゴドフリー=スミスは、哲学者である。しかも同時に、海に潜って生き物の生態を観察することを楽しむダイバーでもある。哲学と言っても、生物哲学や心の哲学が専門で、カントやドゥルーズなどを研究する哲学者とは毛色が違うが、しかし海の無脊椎動物を研究する生物学者ではない。そのような哲学と生物世界をつなぐ眼差しを持った独自のスタンスが、タコを語らせて、心とは何か、知性とは何か、というテーマに迫っていくのだ。

「心は海の中で進化した」と著者は書く。感情や心というのは、せいぜい哺乳類以降の生物にあって、海の中になどない、と考えてしまいがちである。しかし我々ヒトですら「忘れた」、ある種の感覚を、海の生き物たちが持っているのも、また確かなことである。たとえば満潮の夜に一斉に産卵するサンゴや魚たちを見ていると、宇宙の中で太陽と月がどこにあって、それがどんな「海のカレンダー」を作っているか、海の生き物たち(だけ)が明らかに知っている、と思われることがある。
「心は海の中で進化した」と書く著者は、とくにタコを通して、そのことに気づいた。

「生命が誕生したのも海で、動物が誕生したのも海だ。神経系、脳の真価が始まったのも海の中だった。また、脳が価値を持つには、複雑な身体が必要になるが、その複雑な身体が進化したのも始めは海の中だった」(242ページ)
しかし、それを極めたのは、タコだけで、果たしてヒトには「タコの心身」のような能力はないのか。その答えは、この本には書かれていないが、しかしヒトの身体へと進化した歴史の始まりは、やはり同じ海の中だった。ヒトの体も、その大部分は既に海の中で作られた。だからヒトの体には(おそらく内臓には)、脳とは別の心が、心身問題が秘められているはずである。タコの心身問題を通して、この本は、そんなことも考えさせてくれる。(夏目大訳)
この記事の中でご紹介した本
タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源/みすず書房
タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源
著 者:ピーター・ゴドフリー=スミス
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源」出版社のホームページはこちら
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