中村政則の歴史学 書評|浅井 良夫(日本経済評論社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月9日 / 新聞掲載日:2019年2月8日(第3276号)

中村政則の歴史学 書評
最後の「講座派」・中村政則
『中村政則の歴史学』を読む

中村政則の歴史学
著 者:浅井 良夫、大門 正克、吉川 容、永江 雅和、森 武麿
出版社:日本経済評論社
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 私は在野の一経済学徒。中村の教え子ではなく、中村の多岐にわたる著作を今さら系統立てて読むだけの余裕はない。だが、やはり「中村歴史学」を知りたい。そう思いながら本書を手にした。帯には「近現代史研究の中心的存在だった中村政則。日本資本主義史、天皇制論、地主制史、民衆史など人々を魅了した多岐にわたるその仕事をさまざまな角度から再評価し、歴史学での位置づけを問う」とある。本書の編集にあたった大門正克は『評論』第212号(2018年8月)で、「中村さんの学問には、『講座派』や『戦後歴史学』の枠におさまらない魅力があった。中村さんの作品には、読者をぐいぐいと引き込む力のあるものが少なくなかった」と書いている。

本書の構成は5部から成る。第1部は「『中村政則の歴史学』の生涯を振り返る」。冒頭に大門の報告「『中村政則の歴史学』の歴史的位置」があり、それを受けて座談会が持たれている。座談会では、大門ら7人が、中村が関わってきた歴史学研究会と産業革命史研究、地主制史研究などの中村の業績を振り返っている。

第2部は「『中村政則の歴史学』を歴史に位置づける」。中村の歴史学を地主制史論、近代天皇制と象徴天皇制、民衆史論、日本帝国主義史論、戦後史に分類し、森武麿らが中村の著述を中心に、そのあらましと中村の主張だけでなく、その背景にまで迫っている。

森は、「中村は安保闘争の影響を強く受け、人民のために学問をしなければならないという問題意識を終生持ち続けた」と書く。天皇制について書いた安田常雄は、「天皇制確立の論理は、崩壊の論理を含む。確立の仕方は、のちの崩壊の仕方を決定する矛盾的契機を含みながら確立する」と中村の説を引いている。

中村は、民衆史に当事者の聞き取り(オーラルヒストリー)を活用している。その代表作は『労働者と農民』(1976、小学館)だ。女工、坑夫、農民に対象を絞り、これらの職種が戦前の日本資本主義の特徴を示しているとし、戦前日本の労使関係の前近代的本質を明らかにしている。

第3部は「中村政則の研究活動の場をたどる」。産業革命史研究会、歴史学研究会、自治体史編さん、欧米の歴史研究者との交流、韓日の歴史研究者間の人間的交流の5つが並ぶ。私には荒川章二「自治体史編さん」が興味深かった。自治体史編さんの最も重要な課題は「それぞれの自治体は、いまどんな問題に直面しているか。過去への問いかけは、ここからスタートする。自治体の歴史を『上から、中央から』見るのではなく、その地域の中から、その地域特有の歴史的個性を明らかにする」。当然のことだが、実際の市町村史は大方そのようには編まれていない。茨城県では、聞き書きを多用した『勝田市史』は例外に属する。

第4部は「『中村政則の歴史学』を読む。中村の代表作である『日本地主制の構成と段階』、『近代日本地主制史研究』、『労働者と農民』、『昭和の恐慌』、『日本近代と民衆』を加瀬和俊らが解説する。第5部が著作目録。中村の著作への書評、紹介文献も収録されている。

「あとがき」で浅井良夫は「近年、戦後の歴史学について論じられる際に、中村政則さんへの言及がほとんどないことを、とても不思議に感じていた」。70年代半ば以降の歴史学は社会史、民衆思想史に重点を置くようになり、「中村さんの仕事は『戦後歴史学』の末尾に位置づけられ、『時代遅れ』であるとして、歴史家の関心を惹きつけなくなった」と述懐している。学会の事情に疎い私には、このあたりのことがよくわからないが、明治維新(戊辰戦争)から150年経った今、改めてその歴史を辿り、次世代に何を引き継ぎ、何を捨てるのかを考えるために、「中村政則の歴史学」は有効だと考える。
(文中、すべて敬語を省いている)
この記事の中でご紹介した本
中村政則の歴史学/日本経済評論社
中村政則の歴史学
著 者:浅井 良夫、大門 正克、吉川 容、永江 雅和、森 武麿
出版社:日本経済評論社
以下のオンライン書店でご購入できます
「中村政則の歴史学」出版社のホームページはこちら
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