第160回芥川龍之介賞受賞記念 『ニムロッド』上田岳弘氏インタビュ― (インタビュアー:長瀬海氏)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月15日 / 新聞掲載日:2019年2月15日(第3277号)

第160回芥川龍之介賞受賞記念
『ニムロッド』上田岳弘氏インタビュ―
(インタビュアー:長瀬海氏)

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ニムロッド(上田 岳弘)講談社
ニムロッド
上田 岳弘
講談社
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第一六〇回芥川龍之介賞発表後の一月二三日、受賞作『ニムロッド』(講談社、初出『群像』十二月号)の著者・上田岳弘氏に受賞直後の記念インタビューを行なった。
聞き手は、ライターの長瀬海氏。   (編集部)
第1回
■仮想通貨と駄目な飛行機  塔と重力のモチーフ


――今回芥川賞を受賞された『ニムロッド』という小説は、仮想通貨を題材にされています。なぜ仮想通貨を題材にしたのかというところからお聞かせください。
上田 
 二〇一七年の末頃から一八年初頭にかけて仮想通貨の時価総額が最高値になって話題になりました。僕も興味を持って調べていたら、創設者の名前がサトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)とあって。実は日本人ではないかもしれない、正体がわからないという、ほぼ匿名の存在性がすごく気になりました。そして、もう一つのモチーフである「駄目な飛行機コレクション」をNAVERまとめサイトで知ったのは一六年頃ですが、「桜花」という特攻機が駄目な飛行機に入っていることに違和感がありました。「桜花」は、海軍の大田正一さんという人が主導して開発して、結果、戦中にああいう痛ましい特攻が実現化したわけです。戦後、大田正一は自殺を試み、失敗して失踪したまま、改名してしまいます。名前しかないサトシ・ナカモトと、名前を棄てることになった大田正一。この二つが頭の中で絡まり合って、こういうのは小説に書いてみないとわからないと思った。仮想通貨を取り巻く現状についての論点とは全く別のアプローチです。仮想通貨が含む本質的な匿名性と、名前を棄てることで成り立つ人生、この隣接が小説で書けるのではないかと。小説はこういう直感から入ることが多いです。

――たとえば『私の恋人』(新潮文庫)だとどういう直感があったんですか。
上田 
 あれは完全に、冒頭のGoogle翻訳文が始まりですね。当時、AIやシンギュラリティのことが気になっていました。H・G・ウェルズは『宇宙戦争』で、人類が駆逐される世界を描きましたが、それは過去に既に起きた事象だった。入植者の白人が、タスマニア島の先住民をハンティングして絶滅させた。そういう蛮行を非難するために作品を書いたという側面はありつつ、きっと創作動機は一面的ではないでしょうが。思いつきで、タスマニア島について書いている部分を抜き出して、自動翻訳してみました。それであの冒頭がまずあったわけです。そこから書いていったのが『私の恋人』です。これは初めて話したかもしれません。

――そこはすごく面白いのでもう少し深く聞きたいのですが、先に『塔と重力』(新潮社)の話を聞かせてください。まず塔と重力というモチーフがありますが、話自体は阪神淡路大震災のことですね。そこはどう繋がっていくのでしょうか。
上田 
 『塔と重力』の前に、短編小説を二つ書いていました。「重力のない世界」と「双塔」です。次の中編では、短編で描ききれなかった部分を書こうと思っていたのと、恋愛を描きたいな、と。『ノルウェイの森』が頭に浮かんで、書き初めに、とりあえず登場人物の名前を『ノルウェイの森』に寄せて作りました。主人公・ワタナベをタナベ(田辺)、緑を葵、直子は美希子、永沢さんは水上というイメージで置いてみて。種明かしをすると(笑)。

――なるほど! 今すごいゾクゾクしました。
上田 
 『塔と重力』自分でも好きな作品なのですが、どの作品もそうですが、発表してしばらくすると、書きこぼしがあったような気がし始めるんです。『塔と重力』は、お前が泣かなくても誰かが泣いているよということで終わり、続編的なことを自分の中でずっと考えていました。もともと、『塔と重力』はリアリズムに寄せたものを書くつもりがあったのですが、テーマを追求するうちに、フィクショナルな仕上げが必要になりました。止むを得ず、SF的なフィクションがリアル世界にはみ出てしまった。今回、『ニムロッド』の作中で、フィクショナルな部分は、作中作の設定の中で完全に閉じています。ですから、リアルな小説として読めるはずです。それを完全に閉じきるということをやらないと、世の中の人と共有できないんじゃないか、という焦りがありました。このモチーフは、現在生きている、わりと多くの人と共有できる気がする。だんだんと世の中が煮詰まってきて、あたかもバベルの塔を作り直しているような気がしませんか、とか。
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この記事の中でご紹介した本
ニムロッド/講談社
ニムロッド
著 者:上田 岳弘
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ニムロッド」出版社のホームページはこちら
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