ネルソン・マンデラ その世界と魂の記録   ベニー・グール写真 ロジャー・フリードマン著|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月19日 / 新聞掲載日:2019年2月15日(第3277号)

ネルソン・マンデラ その世界と魂の記録   ベニー・グール写真 ロジャー・フリードマン著

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ネルソン・マンデラという名前を目にして人は何を思い浮かべるだろうか。私には、すべてを許し人の平等と平和を願う、はじけるような笑顔がまず浮かぶ。マンデラのその笑顔は何によって作り上げられたのか――自らが受けた生と、社会の抱える不条理との、長い戦いの結果得られたものであることが本書によって明らかにされていく。

この本は写真集、あるいは人物評伝、さらには南アフリカの社会や政治、歴史分野を描き出す本として読むことができる。ネルソン・マンデラという偉大な人物の〝すべて〟が描かれることで、私たちはアフリカの歴史に触れ、人種差別(アパルトヘイト)の実態を知り、まだこの世界に残された不平等への怒りを知る。

著者のロジャー・フリードマンは、一九一八年七月一八日に生を受け亡くなる二〇一三年一二月五日まで九五年間のマンデラの生涯を、克明な資料や調査から描き出していく。そしてベニー・グールの写真によって描かれるマンデラの人物像を読者の心に刻み込んでいく。当然ながら幼い頃や若い時代のマンデラは、写真としては多くは出てこない。子どもの頃の環境や、牢獄に過ごした長い時間を考えると、止むを得ないことではある。そしてそれでもなお、評伝と写真が見事に融合した一冊である。

本書から学ぶべきことがたくさんある。その一つは、社会と闘うのに、暴力的な革命の手法があまりとられてこなかったこと。二七年間にも及ぶ獄中生活にあって、人種差別法の過ちを静かに説き続け、南アフリカの民衆はもちろん、世界中の理性を味方につけていったことである。「悪法もまた法である」という言葉があるが、その法の下で正義を貫く姿はインドのガンジーの独立運動とイメージが一致する。また耐える心の強さと、神は正義を見放さないと信ずる精神の強さは、読む人に勇気を与えてくれる。そして大切なのは、一人の力でなく身近にいる人との絆、世界を動かすのは民衆の力なのだ、と、他の歴史に思いを寄せて確信できる力である。

さらに勇気を持たせてくれるのは、高齢者のことが話題になりがちな現代において、マンデラが獄から放たれて、実際に自分の理想とする人種差別のない社会作りに動き出したとき、年齢が七〇歳に達していたということだ。マンデラのあの笑顔は、理想を実現した後に人生が穏やかに閉じられていくその中で、世界中の人が尊敬をもって彼を語るという本当の幸せを得て、長く苦しかったすべてを許す境地に至って表れてきたものではないか。

本書は、一人の人物を語ることで、あらゆることがらを見透し考えさせる、好著であろう。(金原瑞人/松浦直美訳)
この記事の中でご紹介した本
ネルソン・マンデラ その世界と魂の記録/西村書店
ネルソン・マンデラ その世界と魂の記録
著 者:ロジャー・フリードマン
翻訳者:金原 瑞人
写真家:ベニー・グール
出版社:西村書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「ネルソン・マンデラ その世界と魂の記録」出版社のホームページはこちら
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