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更新日:2019年2月16日 / 新聞掲載日:2019年2月15日(第3277号)

光の人 書評
戦後、一〇〇〇人の孤児を育てた男
「無償ともいえる愛」、実在の人物をモデルに

光の人
著 者:今井 彰
出版社:文藝春秋
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光の人(今井 彰)文藝春秋
光の人
今井 彰
文藝春秋
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 太平洋戦争末期、東京大空襲などによって、多くの戦災孤児が生まれた。昭和23年2月発表の厚生省児童局調査によると、戦災孤児の数は12万3512人に上った。実際は統計よりはるかに多かったという記録もある。彼らの多くは学童疎開で地方に行っている間に、都会に残った家族を空襲で失った十歳前後の子供であった。

敗戦国日本の政府は無力で、無慈悲であった。孤児たちは孤児院に入れられはしたが、劣悪な環境のなか脱走し、悪の道へ入る者も多かった。孤児院に残っていても中学卒業の15歳になれば、施設から出されて住み込みの就職に。しかし、仕事を解雇されると戻るところがなく結局少年ホームレスになるか悪事を働いて鑑別所送りとなるケースが多かったのである。

この小説の主人公である門馬幸太郎は、こうした戦災孤児を見るに見かねて手を差し伸べる。彼らが本当に人間らしく生きるために、家を作らなければならないと決意。職も我欲も投げうって、アパートを借りて4人の少年と共に住み始める。門馬はさまざまな困難に敢然と立ち向かっていき、ときに奇跡的な助けもあって少年たちと共に未来を切り開いていく。

この小説には実在のモデルがいる。児童福祉の世界では名を知られる長谷場夏雄氏である。長谷場氏は、青少年教育を使命とするカトリック・サレジオ修道会で神父を目指していたが、以前施設で世話をしていた戦災孤児卒業生に乞われ、修道会を離れて彼らと向き合っていった。今でこそ国からの援助があるが、当時は行政の目が行き届かなかった孤児院出身者のための高齢児童養護機関を始めたのである。戦災孤児の自立支援の家としてスタートした青少年福祉センターは60年にわたって、家族や社会から見放された青少年たちの居場所を提供し続けている。NHK「プロジェクトX」の元プロデューサーである著者の今井彰氏は、パーソナリティをつとめるラジオ番組で長谷場氏と出会い、その生き方に感銘を受けてこの小説の構想を得たという。それ以来取材を重ね資料を集め、書き下ろし小説として、彼の人生を結実させた。

子供たちを取り巻く状況は次々と変化していく。その変化は小説の中で、門馬と共に時代を歩む登場人物で象徴的に表されている。渋さの中に冷静な司令塔にもなる仙蔵は東京大空襲の孤児である。190センチの巨漢で顔に傷を持つ鉄二は交通遺児で校内暴力の被害にあった孤児。ミラノに住む美しいデザイナー綾子は、かつて性暴力の被害にあった少女。好青年直樹は渋谷に捨てられた棄児である。時代は変わってもいつも大人の自己中心的なふるまいで犠牲になるのは子供たちだ。彼らはそれぞれの運命を背負い、苦悩しながらも門馬に助けられながらたくましく生き抜いていく。

ところでなぜ門馬はここまで無償ともいえる愛を示すことができるのか。小説後半で描かれる、実弟に対する悔やみだけではないはずだ。実は門馬のセリフの中で二箇所ほど出てくるイタリアの聖人の名が鍵だと思っている。モデルとなった長谷場氏が去ったサレジオ修道会の創立者で、青少年の父とも呼ばれるドン・ボスコである。彼は言う。「子供たちを愛するだけでは足りない。子供たちが愛されていると感じるように愛しなさい」。門馬には、小説にはあまり描かれていないが、愛された確かな体験があったに違いない。だからこそ、そのように子供たちを愛していけたのだと思うのは少し読み込みすぎだろうか。
この記事の中でご紹介した本
光の人/文藝春秋
光の人
著 者:今井 彰
出版社:文藝春秋
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