異教の隣人 書評|釈 徹宗(晶文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月16日 / 新聞掲載日:2019年2月15日(第3277号)

異教の隣人 書評
この国で普通に暮らす人たちの信仰のかたち
外国の伝統的宗教拠点23箇所を訪ねる

異教の隣人
著 者:釈 徹宗、毎日新聞「異教の隣人」取材班
イラストレーター:細川 貂々
出版社:晶文社
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宗教学者の釈氏は、冒頭、「宗教的時間」について、神学者であり哲学者であるパウル・ティリッヒによるクロノス(物理的・客観的時間)」と「カイロス(主観的時間)」の分類から、こう書く。現代人は(暮らしが便利になって)ひと昔前より時間が余ってしかるべきなのに、あきらかに現代人の方が忙しくなっている。カイロスが縮めば、イライラして、しんどくなってしまうからである。最も良く「カイロスの時間を延ばす装置」は宗教儀礼だ、と。

正直、よく分からなかった。しかし、読み終わる頃には、なるほどなあと、すこんと心に落ちた。

毎日新聞の記者が釈氏と共に、主に関西圏にあるイスラム教、ユダヤ教、台湾仏教、ヒンドゥー教など23箇所の外国の伝統的宗教拠点を訪ね、その場の持つ意味や集う人たちの信仰のかたちを訊く。そして、釈氏がそれぞれの蘊蓄を付したのが、本書だ。初出が新聞連載で、広い窓口を想定しているためか、外国の宗教に無知な私でも、ついていける。

イスラム教のモスクでは、大人から子どもまで30人ほどが礼拝し、指導者の講義を受ける様子がまず淡々と描写される。その後、釈氏が指導者に「ISについてどう思われますか」と単刀直入に問うから、ヒヤッとした。しかし、答えは「ISは真のムスリムではない。彼らのことでムスリム自身が苦しんでいる」とさらりとしたものだった。ムスリムは普段通り、普通のムスリムとして行動するべき。周囲は私たちがやること通りに私たちを見るのだからと。

そう、この本に登場するのは、仏教寄りだったり無宗教寄りだったりする我々に「異教」なだけであって、皆、「普通の〇〇教」の人たちだ。日本に暮らしても、その「普通」が踏襲されている様子を覗くことができる。

国内唯一のジャイナ教寺院には、近隣に住むインド人家族ら約40組がほぼ毎日、参拝に訪れている。信者は、厳格なベジタリアンで、虫を踏まないように歩いたりもする。多くが宝石商に従事するのも、殺生に直接つながらないからだそうで、「神様は全部分かっている」という言葉が引き出されている。

ユダヤ教の礼拝所では、毎週金曜日の日没から土曜日の日没まで一切の仕事をしてはいけないとされる決まりに則る礼拝は1時間ほどで終わり、参加者全員でわいわいと食卓が囲まれた。「宗教というより、ウェイ・オブ・ライフだ」。そんな言葉が印象に残った。

約300人が参加するベトナム仏教の寺院の法会は、電飾と音楽でショーアップした中で、ダンスを踊って阿弥陀仏に蝋燭の火を捧げるものだったが、「難民として日本にやって来る途中、海で亡くなった人らの命を思う」との意味で続けられてきたとは…。

挙げればきりがない。

読み進むほどに、記者と釈氏に乗っかって、この国で普通に暮らす人たちの信仰のかたちが「訳がわからない」ものでなくなっていった。

どの宗教の信者も、拠点があることの安心感を口にする。同じ信仰に伴う生活様式、言語、食習慣。釈氏は、「特有の行動様式や価値体系の蓄積が宗教と考えるなら、異文化の中で暮らしている人にとって、自分たちの宗教的土壌を感じられる場は必要になってきます」と述べているが、こういった場に、穏やかな時間が流れていると気付かされる。それは、自国外であるというハンディキャップなど凌駕する穏やかな時間だ。さて、文頭に引いた「『カイロスの時間を延ばす装置』は宗教儀礼です」と書いたページを繰り直したのだった。本書に登場するご近所の「異教徒」から、翻って「あなたたちは忙しいのが好きなの?」と問われているような気がしたのは、考えすぎだろうか。
この記事の中でご紹介した本
異教の隣人/晶文社
異教の隣人
著 者:釈 徹宗、毎日新聞「異教の隣人」取材班
イラストレーター:細川 貂々
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
「異教の隣人」出版社のホームページはこちら
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