その日、朱音は空を飛んだ 書評|武田 綾乃(幻冬舎 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年2月16日 / 新聞掲載日:2019年2月15日(第3277号)

武田 綾乃著『その日、朱音は空を飛んだ』

その日、朱音は空を飛んだ
著 者:武田 綾乃
出版社:幻冬舎
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この作品は、朱音という少女の自殺を機に学校で取られた「いじめについてのアンケート」から、数人の同級生に焦点が当たり、章ごとに異なる視点で描かれていく連作形式の物語である。ジャンルは「スクールミステリ」。

という風に要点を纏めれば、在り来たりな物語だと思う人も居るかもしれない。だからこそ、第一章を読み終わり、その副題を見た瞬間、私は思わず首を傾げた。「この物語に探偵(きみ)はいらない」。被害者がいて、加害者がいて、謎を解く人がいる、という単なるミステリではない、第一章から探偵を否定するミステリとは? その答えが「スクールミステリ」という言葉にあるのだと思う。

この作品では、中心人物である朱音の親友や友人、彼氏、ライバルを始め、朱音と親しくないクラスメイトや殆ど関わりがない生徒まで、登場人物一人一人の立場・思惑を、作者である武田女史が緻密に描き出している。朱音の死の真相を追いたがる生徒、犯人を作りたがる生徒、朱音の死を背負おうとする生徒。そして、それらの思惑にそれぞれ反対の立場をとる生徒も居る。朱音の死がなければ終ぞ交わらなかった思惑が向き合い、ぶつかり合うことで、そこに在り来たりではない物語が生まれる。驚くべきことに、最終章で開示される朱音本人の思惑ですら、それらのうちのひとつに過ぎない。

だからこそ、従来のミステリのような探偵役では、この物語の主人公にはなれないのだろう。なぜなら、この物語の舞台である学校(スクール)には、本来、主人公も悪役も居ないから。ミステリの主題たる「謎の解決」以上に、登場人物たちが「生きて、ぶつかり合う」所にこの物語の面白さがあるのだと思う。

さて、あなたは「学校は社会の縮図である。」という言葉を聞いたことがあるだろうか。今や教室と社会のはざまに居る大学生の身から、あの言葉は本当だった、と他人事のように思い返すことがある。小学校、中学校、高校と三つのそれを経てきた私の中で、最も捻じれた「ちいさな社会」として記憶に残っているのは、進学校を謳う小奇麗な高校の校舎だった。

容姿、運動神経、そしてそれ以上に全てを決定づける「勉強第一主義」。生徒一人一人が模試の得点で順番に並べられ、談笑の内にも、虎視眈々と上を狙う目が飛び交う。あからさまないじめは滅多に起こらない。自ずから内申に傷を作ることは、何より恥ずべき行為だとされた。

『その日、朱音は空を飛んだ』の舞台も、進学校という「ちいさな社会」だ。読後、思わず最初に作者の出身高校を確認しようとした程に、そこには残酷なまでのリアリティが横たわっていた。

もしかしたら、人によっては彼・彼女たちの思考に理解が及ばないかもしれない。しかし、ひとつ、その環境に居た者として、着目してほしい点がある。「勉強なんて全然してないよ」「試験結果やばかった」……教室に溢れる生徒達のちいさな嘘は、彼らにとって、捻じれた「ちいさな社会」を生き抜くための剣であり、鎧だった。

どうか、彼らが用いる剣と鎧を見極めてこの物語を読んでほしい。

そうすることではじめて読者は、この「ちいさな社会」の片隅に、己の座席を見つけることができるだろう。
この記事の中でご紹介した本
その日、朱音は空を飛んだ/幻冬舎
その日、朱音は空を飛んだ
著 者:武田 綾乃
出版社:幻冬舎
以下のオンライン書店でご購入できます
「その日、朱音は空を飛んだ」出版社のホームページはこちら
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