対談=片渕須直×佐分利奇士乃 明日を違う一日にするためのアニメーション 佐分利奇士乃著『今日を生き延びるためにアニメーションが教えてくれること』(学芸みらい社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年2月22日 / 新聞掲載日:2019年2月22日(第3278号)

対談=片渕須直×佐分利奇士乃
明日を違う一日にするためのアニメーション
佐分利奇士乃著『今日を生き延びるためにアニメーションが教えてくれること』(学芸みらい社)刊行を機に

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生態心理学、自然科学からアニメーションを論じる、新しい一書が上梓された。佐分利奇士乃氏の『今日を生き延びるためにアニメーションが教えてくれること』は、「この世界の片隅に」「マイマイ新子と千年の魔法」「かぐや姫の物語」「聲の形」「響け!ユーフォニアム」「リズと青い鳥」「宝石の国」「プリキュア」といった実際の傑作アニメーションを、アフォーダンス等の「日々を生き抜く心理学」から捉え、新たなアニメーション表現、さらに生態心理学をも考えようとする本である。刊行を機に著者と、本書でも対談を行っている「この世界の片隅に」の監督・片渕須直氏に、さらに深くアニメーション表現について語っていただいた。(編集部)
第1回
セルアニメの限界までの挑戦からデジタルへ

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佐分利奇士乃氏
佐分利 
 先日、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のタイムシートの一部を拝見したのですが、「Pセル」まであったのに驚きました。アルファベットでAセルから数えてPですから、ワンカットに十七枚を重ねるという意味ですよね。
片渕 
 いまはデジタルなので、理論的にはいくらでも重ねられるんですよ。セルを使っていた頃には、撮影技術的にクリアに撮れるのは三枚重ねが限界、と言われていましたが。
佐分利 
 三枚ですか。
片渕 
 本当は三枚が限界だけど、ギリギリ五枚まで、どうしても仕方ない場合でも六枚までに収めてくれ、という感じでしたね。

ワンシーンの中の背景、物、人物などを、それぞれ分けて描いて重ねるのですが、セルの素材は、撮影に使うフィルムのベースの部分と同じもので、光学的なものなのですが、何枚も重ねると、透明な部分が透明ではなくなってしまうんです。

重ねの下から、A、B、Cセル…と呼びます。昭和三〇年代に、東映動画が日本で初めてアニメーションのシステム的な取り組みを始めたときに、演出助手たちが、上からABCにするか、下からABCにするか考えたそうです。高畑勲さんや、僕の大学の先生である池田宏さんが、そういうことをしていたのだと。
佐分利 
 アニメの草分け期ですね。デジタルになっても、セルの呼び方は踏襲されている(笑)。
片渕 
 『リトル・ニモ』のパイロット・フィルムや、大友克洋さん監督の『MEMORIES』「大砲の街」など、アナログ時代のアニメーションは、セル重ね一つとっても、限界を超えた挑戦になってしまっていました。一度に五枚しか重ねられないなら、五枚重ねたフィルムを三回撮って、それをオプチカル合成で重ねよう、とかね。
佐分利 
 「大砲の街」は、セル時代の作品ですか。
片渕 
 その最後の時期だったので、セルとフィルム撮影で、できる限界までやってみようと。
佐分利 
 二〇分ちょっとの全編が、ほぼワンカットで作られているんですよね。人物をカメラがずっと追っていって、切り返しショットがない。アニメの基本である「絵を動かす」表現をとことん見せてくれる作品です。
片渕須直氏
片渕 
 全編を三十数ブロックに分けて撮影して、光学合成で一本のネガに焼き付けています。大友さんの絵コンテから、撮影するのにどの大きさの絵を作ればいいのか、僕が素材分けと素材サイズの割り出しをしました。絵コンテを実際に描くサイズに拡大して貼り合わせ、どれぐらいのスピードでパンすればいいか見積もったんです。その段階で撮影上必要となる素材サイズを、パンの長さや、トラックアップ、トラックバックで、寄ったり引いたりするなど、想定を全て勘案して割り出しました。長いパンを設計するので、机では間に合わず、ほとんど床で作業していました。
佐分利 
 床ですか。
片渕 
 美術の人たちも、背景などの素材を描くとき、ベニヤ板に紙を水張りしていました。描き終わったら、周りに貼ったテープを剥すのですが、乾燥すると紙が縮むんですよ。その瞬間、最初に設計した撮影スピードが全部狂う(笑)。さらにカメラの下で照明を当てるとまた縮むんです。無限に微調整をしながら撮影しなければいけなかった。
佐分利 
 すごいことをしていたものですね。結果、素晴らしい作品が生まれましたが。
片渕 
 一九九五年頃作っていた作品なので、セルで試行錯誤するのも最後の時期でした。二〇〇〇年には、完全にデジタルアニメに切り替わります。その頃は、セル用の絵具屋も、そろそろ廃業しようかと言っていて。セルの絵具会社は国内に二社しかなくて、絵具をこねる人もお年寄りになっていて。フィルムベースがPET樹脂に変わり、我々の仕上で使うアセテートのセルもなくなるのではないか、とも言われていました。セルがなくなる、絵具もなくなる。自ずとデジタルに切り替えざるを得ない、という時期でした。

そんなふうだった一九九〇年代の時期に、セルで限界までやれることを考えようとした。でもそのとき、セルの特性を知り尽くし、試行錯誤し尽くしていたがゆえに、その後デジタルに変わったときに、何がどう違うのか、どこが自由になるのかが即座に分かった感じがしました。
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この記事の中でご紹介した本
今日を生き延びるためにアニメーションが教えてくれること/学芸みらい社
今日を生き延びるためにアニメーションが教えてくれること
著 者:佐分利 奇士乃
出版社:学芸みらい社
以下のオンライン書店でご購入できます
「今日を生き延びるためにアニメーションが教えてくれること」出版社のホームページはこちら
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