「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本 (シリーズ 日本の中の世界史) 書評|南塚 信吾(岩波書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年2月23日 / 新聞掲載日:2019年2月22日(第3278号)

国際関係史を基礎に日本を描く
自国本位的なものの見方を相対化させるきっかけに

「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本 (シリーズ 日本の中の世界史)
著 者:南塚 信吾
出版社:岩波書店
このエントリーをはてなブックマークに追加
 幕末・維新期以降、日本の近代を生きた人々は世界中の政治・経済・文化の動きに否応なく巻き込まれると同時に、それらの動きを取り込んで、自らの主体を形づくってきた。従って、日本の近代においては、何をとっても、日本に「固有」といえるものはない。それらはいずれも、「日本の中の世界史」の現れとして存在しているのである。

本書はこのスタンスを共有する全七冊シリーズの第一冊で、一八四〇年から一九一〇年の国際関係史を基礎にして日本を描いたものである。

著者も指摘するように、国際関係の中に日本を位置付ける試みは、これまでも無かったわけではない。ただ本書では、こうした「関係」の中で、世界の諸地域の歴史が「連動」するととらえる点に特徴がある。

「連動」とは、その時々の世界の指導的「傾向」を受け取った諸地域が、それに対し「反発」したり「受容」したりすることで、その「傾向」を「土着化」していくことである。

例えば著者は坂本龍馬を例にこれを説明する。坂本龍馬は新国家の形成に向けて「船中八策」を提案したが、これは突然のひらめきで思いついたものではない。それまでに彼が学んだ諸外国の先例や海外事情が大きく影響を与えていたのである。さらに本書ではこれを「日本史」にとっての「外的契機」や「国際環境」としてではなく、世界の歴史が日本という場所で坂本を通して展開し「土着化」したと見るのである。

こうした「関係」と「連動」という見方に立つことは次のような効果をもたらす。すなわち、どの地域が「先進」的で、どこが「後進」的かという視角や、「ヨーロッパ」対「アジア」といった、世界史のいずれかに「中心」を置く見方は消滅し、従来の歴史記述で無視されていたり、中途半端に扱われてきた事実に、歴史的意義を与えることができるのである。

本書のもう一つの特徴は、「万国史」との連関である。コラム形式で「万国史」について解説されているほか、本文中にもしばしば箕作麟祥『万国新史』が引用されている。

「万国史」とは、いわゆる世界史のことで、幕末・維新期の日本では、欧洲由来の世界史が一般に「万国史」として紹介された。一九世紀の欧洲では、従来の天地創造に始まるキリスト教的普遍史からの脱却を目指し、世界史の模索が進んでいたが、この潮流は日本にも大きな影響を与えたのである。

一八九〇年代以降、欧洲では各国史の隆盛に伴い、世界史は衰退に向かった。しかし、日本では二〇世紀に入ってもしばらくは、一国史や欧洲中心の歴史叙述に飽き足らない人々によって、東洋史・西洋史といった枠組みを超えた世界史が模索され、先の箕作の見方は、坂本健一『世界史』と高桑駒吉『最新世界歴史』によって継承・発展させられた。

その後日本では「日本史」「東洋史」「西洋史」の三区分が定着し、新たな世界史への挑戦は途絶えたが、本書は、こうした明治時代の先達の精神に突き動かされ、その途絶えた問題意識を受け継ごうとする側面もまた併せ持っているのである。

本書を手にした読者は、クリミア戦争と太平天国・黒船来航が関係しあい、マケドニアと満洲・朝鮮が並記される歴史に、最初は違和感を覚えるかもしれない。しかしそれはたかだか百年余の歴史しかない一国史(ナショナル・ヒストリー)の枠内で歴史を見ることに、我々がいかに慣れてしまっているのか、ということの裏返しかもしれない。

本書を読み進める中でしばしば新鮮に感じられる見方が、すでに明治時代に、現在からみても遜色のないレベルで指摘されていたことを知るのは驚きであるし、こうした観点は、日本のみならず、世界的に広がりつつある自国本位(ファースト)的なものの見方を相対化するきっかけとなる筈である。
この記事の中でご紹介した本
「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本 (シリーズ 日本の中の世界史) /岩波書店
「連動」する世界史 19世紀世界の中の日本 (シリーズ 日本の中の世界史)
著 者:南塚 信吾
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
歴史・地理 > 日本史関連記事
日本史の関連記事をもっと見る >