経済学入門 書評|ローザ ルクセンブルク(御茶の水書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年2月23日 / 新聞掲載日:2019年2月22日(第3278号)

思想の全体像を明らかに
四〇年ぶり、三度目の翻訳

経済学入門
著 者:ローザ ルクセンブルク
翻訳者:保住 敏彦、久間 清俊、桂木 健次、梅澤 直樹、柴田 周二
出版社:御茶の水書房
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ローザ・ルクセンブルクの『経済学入門』の新しい翻訳が出版された。今回の翻訳は、一九二六年の佐野文夫訳(叢文閣)、一九七八年の岡崎次郎・時永淑訳(岩波文庫)に続く、三回目の翻訳である。佐野訳はパウル・レヴィ編の一九二五年版を底本にし、岡崎・時永訳は旧東独マルクス・レーニン主義研究所編の『ローザ・ルクセンブルク著作集』第五巻所収の「国民経済学入門」(一九七五年版)を底本にしている。本書は岡崎・時永訳と同様一九七五年版を底本としているが、原書者の手書き草稿を参照して充実させることができたとのことである。三度目の翻訳であるので、訳文はこなれたものになっているし、詳しい訳注が付されていることも理解を助けるものになっている。一部の固有名詞の表記(「ウッチ」、「ジーベル」等)が不正確なのが惜しまれる。

本書は、一九〇九年から一九一三年に、ルクセンブルクがドイツ社会民主党の中央党学校(ベルリン)でおこなった経済学講義をもとにしているが、生前に出版されたものではないので彼女自身の推敲を経たものではない。また原稿のうち失われた部分も大きいので、同時期に書かれた『資本蓄積論』(一九一三年刊)と合わせて検討する必要がある。内容的には、第二章と第三章の経済史的叙述が注目されるであろう。『資本蓄積論』の第三編「蓄積の歴史的諸条件」と重なっているが、ルクセンブルクの「原始共同体」に対する強い関心を伺うことができる。また、「共同体」に対照される資本主義経済の把握が、『資本蓄積論』と同様に、過度に抽象化されたものであることにも留意したい。

ルクセンブルクは急進的マルクス主義者として日本ではよく知られている。戦前すでに主著の『資本蓄積論』をはじめとして複数の政治論文や手紙が翻訳されている。戦後には、、ポーランド経済論、民族問題論、ロシア革命論等が新たに訳出され、また複数の伝記が出版・翻訳されている。

ルクセンブルクについては、すでに一定の研究が進められ、その思想の諸側面が明らかにされている。すなわち、①ロシア帝国からのポーランドの独立を求める運動に対する一貫した反対、②ドイツの修正主義論争におけるカウツキー派の尖兵としてのベルンシュタイン攻撃、③ロシア社会民主党の組織論争でのレーニン前衛党論に対する反前衛主義的批判、④『資本論』第二巻におけるマルクス「再生産表式論」に対する批判、⑤資本主義経済の自立性の否定とその脆弱性の強調、⑥第一次世界大戦前夜のカウツキー派からの分離と急進左派の糾合、⑦ボリシェヴィキ政権の農民的小経営への譲歩に対する異論、そして、⑧手紙に見られる「意外にも美しい情緒」(吉野作造)の発露、などである。しかしながら、これらの側面を備え持った彼女の思考を貫くもの、あるいは思想の全体像が何なのかについては、未だ十分に解明されているとは言えない。そのような研究の不備をついて、「平和革命論者」とか「世界システム論の先駆者」としてルクセンブルクを性格付けるような謬論が散見されるのは残念な傾向と言わねばならない。
二〇〇〇年九月にチューリッヒのグロース教会で開かれた「第一二回ローザ・ルクセンブルク研究国際会議」で、橋本盛作御茶の水書房社長から日本語版『ローザ・ルクセンブルク全集』の刊行企画が発表された。会議後日本で、故星野中、故松岡利道、故伊藤成彦らによって「『全集』編集委員会」が組織され、二〇一一年に『ローザ・ルクセンブルク経済論集』(全四巻六分冊)、二〇一二年に『ローザ・ルクセンブルク全集』(全一六巻)の刊行が開始された。本書『経済学入門』は、『ローザ・ルクセンブルク経済論集』の第四巻として発行されたもので、『ローザ・ルクセンブルク全集』出版事業の一環をなすものである。彼女の思想の全体像を明らかにするために、この事業の完成が待たれる。
この記事の中でご紹介した本
経済学入門/御茶の水書房
経済学入門
著 者:ローザ ルクセンブルク
翻訳者:保住 敏彦、久間 清俊、桂木 健次、梅澤 直樹、柴田 周二
出版社:御茶の水書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「経済学入門」出版社のホームページはこちら
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