筒井康隆 新春エッセイ 新年 サル 宇宙 1968(昭和43)年1月8日号(1/1日合併)3面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月31日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第707号)

筒井康隆 新春エッセイ
新年 サル 宇宙
1968(昭和43)年1月8日号(1/1日合併)3面掲載

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1968(昭和43)年1月8日号
3面より
 ええ。新年でございましてな。

近ごろでは正日てえとSF作家がひっぱり出されますようで。どうやらSF作家というのは、よほどおめでたい人種のようで。

例年でございますと、星の家新馬師匠とか、小松亭発狂師匠など、売れっ子連中が大いに書きまくりますが、今年はどうやら連中よほど註文攻めで手いっぱいになりましたか、私どもにまでお座敷がかかります。前座がひっぱり凧では、ここにSFも隆盛を極めたかと存じますが。

ええ。昨年は未来論が流行いたしましたな。私なども尻馬に乗って『大学の未来像』や『ゴー・ゴーの未来像』などを演らせていただきましたが、暮に小松亭の師匠が中公新書亭で演りました『未来の思想』で、まず一段落の様子、これで未来も過去のものとなったかと、その後の売れ口を心配いたしておりましたが、この分ではまだまだSFの流行は続きそうで、これもひとえにお客さま各位の御愛顧のたまものと、あらためてお礼申しあげます。

ええ。新年でございまして。何かおめでたい話を演れとのご注文でございます。

何でも最近は、未来とか宇宙とかいったことは、おめでたいことのようになってしまっております。

ところが昔の人は、未来のことなど考えませんでしたな。手前たちの社会がどう発展していくか、そんなことは考えなかった。なぜかと申しますと、未来社会がいらっしゃる前に、その未来を考える『個体の死』という事実が厳然として存在する。お正月早々縁起の悪い話しで恐縮ですが手前が死んじまってるのに、その先のことを想像したってしかたがねえ――と、いうわけでございましょうな。で、ございますから、昔の人の考えた未来というのは、自分が死んだらどこへ行くかということ――つまり地獄極楽だったわけで。

ところが最近ではそうじゃございませんな。手前たちの子孫が住むのは、どんな社会か――みんな本気で考えております。宇宙の話も、おめでたい話として喜ばれます。どうやら大勢の人の頭が、SF向きになってまいりましたようで。

さて、今年はサルの年でございまして。

宇宙、そしてサル――ということになってまいりますと、どうしてもお話は、例のモンキー衛星のことになってしまいます

宇宙へ最初にとび出した生物――と申しますと、これはソ連のユーリ・ガガーリンさんじゃなく、サルとイヌでございます。

東西の両陣営てえのが、日ごろ仲が悪うございまして、片方が衛星船にサルを乗せて打ちあげますと、片方がそれというのでイヌを乗せて打ちあげました。

ちょうどこのころ、銀河系を遠くはなれた、ある文化の発達した惑星から一機の宇宙船が地球を偵察に来ておりまして な。

「おやっ。これは大変だ。この地球てえ星は、最近ばかに地表で核爆発させるから、さてはついに原子力利用を始めたなと思っていたら、こんどは人工衛星を打ちあげたぞ。この分ではもうじき、宇宙船でよその星にも乗り込んでいくに違いない。うかうかしてはいられねえ。おい熊さんや。あの衛星船を回収しな。ちょっと、科学技術の程度を調べて見ようじゃねえか」

てんで、さっそく地球の両側から打ちあげられた二体の衛星を拾ってまいりました。

中をあけて見ますと、それぞれ毛並みの違う二匹の畜生が出てまいりまして、お互いの顔を見るなり牙をむき、唸りあい、あげくのはてはワンワン、キャッキャッと、たいへんな大喧嘩でございます。

この様子を見て、その異星人の年寄りが、ぽんと膝を叩いて申しました。

「熊さんや、安心しろ。地球という星は、われわれが思っているほどたいしたことはない」
「へへえ、ご隠居さん。それはまた、どうして?」
「地球の両側には、この二種類の、仲の悪い畜生が住んでいて、喧嘩ばかりしとるらしい。あの核爆発も戦争のため、この衛星も軍事目的らしい。してみると、宇宙へとび出して、われわれの星までやってくる心配など、まだ当分は、せいでもよかろう」

はい、ご退屈様。

え? オチがない? 冗談じゃございません。人工衛星は落ちません。(つつい・やすたか氏=SF作家) 
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