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誰も見ていないから 第25回
更新日:2016年12月9日 / 新聞掲載日:2016年12月9日(第3168号)

誰もみていないから ㉕

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Afterimage〉<新宿エブリナイト>
(油彩、キャンバス/33.3×24.2cm/2015年)
ⒸShinjiIhara


「遺作」

その日は、祖母が燃えるゴミをまとめてくれて私が外へ出しにいった。家に戻った時には祖母はお風呂に入り、私は部屋に戻って家族の帰りを待った。テレビを観ながらうとうとしていると、突然、下の階から悲鳴が聞こえてきた。急いで降りると、帰宅した母と姉が湯船の中でうつ伏せに倒れている祖母を必死に助けあげようとしていて、私もすぐに手伝ったが間に合わなかった。祖母が最後に話をした相手は、高校生の時の自分だったのだ。

人などいつどこで死んでもおかしくないとずっと思っていた。だから、いつ死が訪れようとも、その時、後悔しないように遺作を昨年描いた。誰の目も批評も受けつけない、自分だけのためのイコン、私の全てをその中に吹き込んだ。

東日本大震災の日、新宿の高層ビルの中でとてつもない揺れにビルがこのまま崩壊するのではないかと死を覚悟した。その揺れに耐えている数分間「まだ死ねない」と願いつつも、最後に見た世界があった。それは見紛うことのない私の全てを映し出していた。
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