庭園思想と平安文学 寝殿造から 書評|倉田 実(花鳥社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月2日 / 新聞掲載日:2019年3月1日(第3279号)

庭園思想と平安文学 寝殿造から 書評
〝庭〟で読み解く平安人の心
庭という存在の意味を問い、実像に迫る

庭園思想と平安文学 寝殿造から
著 者:倉田 実
出版社:花鳥社
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猫の額の庭に季節の花を絶やさない程度には、植物好きである。授業で見せるため、藤袴や瞿麦も植えている。それらを世話しながら、平安人はどう楽しんでいたのだろうと思う。

本書によると、隣家と前栽に咲いた花や根株を贈り合い、時には「隣歩き(花を見に行くこと)」もしていたらしい。また、主人自ら作業するわけではないけれども、庭の管理は主人が行い、下仕えに命じて庭の「つくろひ(手入れをすること)」をした。思った以上に、地に足の着いた庭の愛好ぶりである。

『蜻蛉日記』の道綱母もかなりの愛好家だったらしい。康保三年(九六六)三月、道綱母が病気の兼家をお忍びで見舞った時のことである。そろそろ道綱母が兼家邸を去らねばならない明け方、兼家は召使に蔀を上げさせて、「見たまへ、草どもはいかが植ゑたる」と庭を見せようとする。本書はそれを、
庭好きな道綱母に、自邸の評価を尋ねたのではないだろうか。どんな風に植わっているかねという言い方で、草花の配置や手入れの仕方の善し悪しの評価をしてもらおうとしたのだと思われる。道綱母を立てたのである。それが愛情表現になっている。しかし、帰りを急ごうとする様子が記されるだけで、道綱母の判断は記されていない。(Ⅲ 平安朝女性文学と前栽 187~188頁)
と読み解く。なるほどと思い『蜻蛉日記』を読み直してみる。春爛漫の三月、草花が美しい盛りである。その庭を見せて妻をもてなしたい、妻の得意分野を話題にして喜ばせたいという兼家のいじらしさが、行間からにじむ。一方、道綱母は「夜が明けて人目につくとみっともない」と言うばかり。夫の気持ちを汲み取ったとは思えない。お見舞いによって一時的に心が寄り添ったように見えても、この夫婦はとことん噛み合わないなあ、と相性の悪さにため息が出る。庭という要素を加味すると、読みがこれほど深まるのである。

実在した庭を対象とした論では、高陽院の解明に圧倒される。四町を占める大邸宅で、藤原頼通が精魂込めて造営した。それを本書は「池庭で威容を誇った邸第」であったとし、その威容を丁寧に浮き彫りにしていく。寝殿と東対の間は通常、遣水を流す程度だが、この庭では北池と南池を結ぶ水路を掘り、舟を通した。筆者も長元八年(一〇三五)高陽院水閣歌合を調べたことがあるが、歌合の漢文日記によると、舟は幄舎を載せ複数の成人男性が乗船できる大きさだった。(『王朝歌合集』明治書院)さらに本書は、設計士がいたこと、人夫をどう召し集めたかなどを指摘しながら、庭の実像に迫る。近年の発掘資料も駆使しながら、東西南北の四方にあったという池や築山の配置、南の築山の間に石組みをして水を落とした滝の存在などを明らかにする。水を主役にした豪壮な庭が浮かび上がってくる。(Ⅱ 実在した寝殿造の庭)

物語を扱った論では、『源氏物語』の六条院の庭を見過ごせない。胡蝶巻の船楽の場面では、春の町に招待された秋好中宮付きの女房たちが乗った船の動き、目線の動きまで辿っていて、女房とともに六条院世界に入り込んだようで楽しい。また、『源氏物語』の庭が仙境の見立てであるのに対し、『狭衣物語』は浄土を幻想させると指摘する。庭の描写に浄土信仰の浸透が見て取れるとのことである。(Ⅰ 神仙庭園から浄土庭園へ)

『うつほ物語』では、秘琴伝授がなされる三条京極邸が「天女の花園」として描かれていることを指摘する。「音楽のための庭」として構想されたためである。(Ⅳ 物語文学の庭)

本書は、いろいろな角度から庭という存在の意味を問う。随所に復元図や概念図、絵巻の一場面、現在の風景写真が掲載され、イメージ化しやすい。概説は他書にゆだねるとしながらも、基本的な解説も怠らない。

庭を視座にして読むと、何と豊かな文学の世界が広がることか。研究者にとっては発想の宝庫である。今後、庭を考える上で必携の書と言えよう。
この記事の中でご紹介した本
庭園思想と平安文学 寝殿造から/花鳥社
庭園思想と平安文学 寝殿造から
著 者:倉田 実
出版社:花鳥社
以下のオンライン書店でご購入できます
「庭園思想と平安文学 寝殿造から」出版社のホームページはこちら
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