日本の漫画本300年 「鳥羽絵」本からコミック本まで 書評|清水 勲(ミネルヴァ書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月2日 / 新聞掲載日:2019年3月1日(第3279号)

日本の漫画本300年 「鳥羽絵」本からコミック本まで 書評
漫画文化研究の創造と受容の通史
個々の漫画文化を考え始める立脚点となる有用な参考図書

日本の漫画本300年 「鳥羽絵」本からコミック本まで
著 者:清水 勲、猪俣 紀子
出版社:ミネルヴァ書房
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日本の漫画文化から生まれたコンテンツは、アニメーション・ゲーム等とのメディアミックスまでを含めて、世界中で人気を博している。こうした日本の漫画文化研究は一九九〇年代より漫画を対象とした作品論・作家論・表現論・文化論が深まりを見せ、二〇〇一年には「日本マンガ学会」が設立された。この研究の発展は、漫画が連続した図像により物語を紡ぎ人々に娯楽と感動を与える創作物であり、文化と経済において大きな影響力を持つ一領域であると広く認識されたことが背景にあるだろう。本書はそうした漫画文化研究において背骨となるべき、創造と受容の通史として読むことができる。

本書は一七二〇年から二〇一七年までの三〇〇年弱の漫画文化史を、鳥羽絵からwebコミックまで幅広く言及しながら通覧している。こうした通史の陥りがちな弱点は、現在の文化事象と近世以前の類似の文化事象との間に直接の系譜を幻視して、ロマンティックな偽日本文化史を構築してしまうことであるが、本書ではそこは慎重に避けられている。本書では近世から近代への日本の漫画文化史は切れ間なく連綿と続くものではなく、鳥羽絵をはじめとする戯画を楽しんだ大衆が、明治維新後にもたらされた西欧のカートゥーンに連続性を感じて受容しえたし、日本の絵師たちもその新たな手法を取り入れて「ポンチ絵」というジャンルを作り上げたという、共感と受容の文化的翻訳を経たゆるやかな連環として、さらにはポンチ絵から漫画、漫画から劇画……への文化的連環を説き並べてゆく。

本書は基本的に年表である。記述は簡潔であるし、書誌情報が中心だ。知識を得るために参照する参考図書に近いだろう。しかし、いままで類書に乏しかったこの分野では、近世から現代までを通覧するだけでも得るところがある。例えばすでに大塚英志氏の主張するところではあるが、漫画文化は孤立して発展してきたものではなく、歌舞伎や講釈、落語、同時代の新聞、雑誌、新派芝居、映画、スポーツ、ラジオ、紙芝居、アニメーション、テレビ、パソコン通信、インターネット等、その時々のポピュラー・カルチャーの媒体とまじりあって相互に影響し合い、その時々の社会状況や経済や政治の影響や要請や抑圧を受けて形作られてきたことが見通せる。特に戦争との緊張関係は見逃せない。

また文化史・学術史においては、金字塔といってしかるべき名作・傑作や、今につながるエポックメーキング的な作品が注目されがちであるが、本書では漫画文化において一時期注目を集めたがその後途絶えた流れや、同時代に話題になったとは言い難い「最初の試み」への目配りがこまやかである。例えば戦前に漫画の書き方本や有名文芸作品のコミカライズの流行や、一九七〇年代の「学園もの」の流行の前にあった「青春漫画」の流れ、初めてのwebと雑誌連載との双方向的連動の試みなど、いくつも指摘できる。

本書を出発点として、戦前から続く学習漫画の系譜や、エロ漫画の表現と社会との関連、漫画と教育をめぐる論争の流れ、コミックマーケットやアニメ雑誌を経由しての同人誌文化を通史として構築することと、紙の漫画が相対化されるwebコミック/電子書籍時代の同時代史の構築の必要が見えてくるだろう。本書はここから考えるための立脚点であり、積み重なった漫画史を通覧するための、特に初学者には有用な書であるといえる。
この記事の中でご紹介した本
日本の漫画本300年 「鳥羽絵」本からコミック本まで/ミネルヴァ書房
日本の漫画本300年 「鳥羽絵」本からコミック本まで
著 者:清水 勲、猪俣 紀子
出版社:ミネルヴァ書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本の漫画本300年 「鳥羽絵」本からコミック本まで」出版社のホームページはこちら
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