ボンちゃんは82歳、元気だよ! あるハンセン病回復者の物語り 書評|石山 春平(社会評論社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月2日 / 新聞掲載日:2019年3月1日(第3279号)

ボンちゃんは82歳、元気だよ! あるハンセン病回復者の物語り 書評
今こそボンちゃんの声を聞くべきとき
勇気とユーモアで逆境を乗り越えてきたその道のり

ボンちゃんは82歳、元気だよ! あるハンセン病回復者の物語り
著 者:石山 春平
出版社:社会評論社
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ボンちゃんの声が聞こえる本だ。いたずら小僧のように、恋する青年のように、革命的な落語家のようにボンちゃんは語る。そして声を受け止めるボクは、ボンちゃんこと石山春平その人のそばに立ち、戦後の生々しいハンセン病差別を追体験することになる。

小学校の先生は、ボンちゃんの病気を知った瞬間から辛くあたりだした。ボンちゃんは机と椅子を燃やされてしまう。密告が奨励された「無らい県運動」の時代だから、ボンちゃんは納屋で隠れて暮らした。友達はアオダイショウとネズミだけ。自殺しようと思ったけれど、ボンちゃんは生きて戻ってきた。療養所行きが決まり、迎えにきた看護婦さんに「つらかったわね」と抱きしめられたとき、ボンちゃんは泣いた。ボクもいっしょに泣いた。

けれどもボンちゃんには、木の根っこのような不屈の闘志がある。葉っぱの輝きのような陽気さがある。強制労働の挙げ句に指を詰めてしまっても、同部屋の盲人の背中に文字を書いて覚えようとする。カメラを趣味とし、動かない短い指で現像までする。そんなボンちゃんに未来を見る人も現れる。

「この人は何事にも打ち勝ち、切り開いていく人だ」「いつも笑顔を忘れず、自分の悩みを表に出さず、人に温かく接する」

気付けば、若い看護婦さんからプロポーズがあった。「二人で頑張れば、人間って生きていけるんだよ」と。「二人って、俺を含めてか?」とボンちゃん。

反対する人が圧倒的に多い中、ボンちゃんと看護婦の後藤絹子さんは結婚する。四畳半一間で生活を始める。子供も生まれる。

自動車免許の受験資格を与えない公安委員会と真っ向ぶつかり、命がけの座り込みをするボンちゃん。免許を取ってからはワゴン車を買ってガイドヘルパーの仕事に精を出す。脳性麻痺のみなさんの通訳を買って出たり、路線バスが車椅子の人を乗車拒否し続けたことから始まった「青い芝の会」の運動に飛び込んでみたり。ボンちゃんは三人の子供の父親としても圧倒的な努力をする。偏見やいじめの渦にも仁王立ちだ。必要あらば病気のことも語り、あらゆる子供たちに考える機会を与えようとする。

ボンちゃん82歳の声。そこには、勇気とユーモアをもって逆境を乗り越えてきたいぶし銀の道のりがある。人間にはこれだけの可能性があるのだと、開かれた、普遍的なメッセージが溢れている。

でも、だからこそ思うことがある。ハンセン病の元患者さんたちを社会から排除しようとしたこの国の水面下の構造は、本当に消え失せたのだろうか。ボンちゃんが常に寄り添おうとする障碍者の問題だけではなく、オリンピックのかけ声の向こうで見えなくなりつつある福島の被災地や、美しい海を埋め立てないで欲しいと訴えているだけなのに、「美しい国」を愛する人たちからボコボコにいじめられている沖縄の人々のことを思うと、何も変わっていないような気がする。ああ、だから今こそ、ボンちゃん82歳の声を聞くべきときなのだ。
この記事の中でご紹介した本
ボンちゃんは82歳、元気だよ! あるハンセン病回復者の物語り/社会評論社
ボンちゃんは82歳、元気だよ! あるハンセン病回復者の物語り
著 者:石山 春平
出版社:社会評論社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ボンちゃんは82歳、元気だよ! あるハンセン病回復者の物語り」出版社のホームページはこちら
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