図書館の日本史 書評|新藤 透(勉誠出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月2日 / 新聞掲載日:2019年3月1日(第3279号)

図書館の日本史 書評
図書館史と日本史の間に橋を渡す一冊
本が貴重であった時代の「図書館的な機能」にも言及

図書館の日本史
著 者:新藤 透
出版社:勉誠出版
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図書館の日本史(新藤 透)勉誠出版
図書館の日本史
新藤 透
勉誠出版
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「図書館」について、あなたはどんなイメージをお持ちだろうか。辞書や全集に囲まれ静かに勉強するところ、家族みんなで楽しく本を借りに行くところ、あるいは、お洒落な空間でコーヒーを片手に読書を楽しむところかもしれない。そのイメージは、地域や年代によっても変わるだろう。

近年は「交流」や「コミュニティ活動」を重視する図書館の建設も相次ぎ、ニュースに取り上げられることも多い。では、かつての図書館は一体どのようなものだったのだろうか。

日本の図書館の歴史を知るには、主に二つの視点がある。「図書館情報学」と「歴史学」だ。この二つの分野を専門とする著者、新藤透氏が、両分野の成果を横断的に活用し、図書館史の概説書としてまとめあげたのが、本書である。

金沢文庫、紅葉山文庫、帝国図書館……現在でもその蔵書の残る、従来の「図書館史」でもおなじみの存在はもちろん、貴族や大名同士の本の貸し借りなど、蔵書家たちによるネットワークについても取り上げられている。いわば「館」としての形を持たない、「図書館的な機能」に焦点をあてた事象にも言及しているのが大きな特徴だ。

最近は「マイクロ・ライブラリー」という個人や小さな組織の私設図書館が脚光を浴びているが、考えてみれば、私たちは幼い頃から、図書館を使うだけでなく、友人同士で本の貸し借りをしてきたのではなかったか。ならば、昔の人たちも同じように入手していたであろうことが容易に想像できる。

本が今よりもさらに貴重であった時代であれば、なおのことだ。なにしろ、今の書店のようなものがない。どんな本があるのか、その本は誰が持っているのか、今のように容易に検索できるわけではない。また、持ち主を知り得たとしても、借りる伝手がなければ入手できない。運よく本を借りられたとしても、何度も気軽に借りられるわけではないから、欲しいと思えば書き写すしかない。

そんな時代に本を多く所蔵することは、今よりもずっとめずらしいことであり、政治的な意義も持っていたであろう。本書では、九条兼実が天皇からも本を借りていたことや、豊臣秀次が金沢文庫の蔵書を接収したことなど、日本史好きの読者なら思わずにやりとするようなエピソードにも触れている。

私が本書を読んで最も興味を持ったのは、著名人ではない、村の名主の事例である。現在の埼玉県熊谷市にある村の名主は、写本を作って村民に貸出しており、その貸出記録も残っているのだそうだ。例えば「大塩平八郎の乱」に関する本の刊行は禁止されていたが、写本には規制がなく、民衆にも情報が広まっていたこと、乱の二か月後には事件をまとめた本を名主が借り受けていたことなどが紹介されている。大阪の事件が、二か月後には埼玉の農民にまで知られていたというのは驚きだった。現代に比べると、江戸時代は地方への情報伝達が遅いという印象があったが、少なくとも私がイメージするよりはずっと早かったようである。

一般書であるが、巻末には人名および資料名の索引がついている。また、引用・参考文献も充実しており、興味のある部分をさらに深く知ることができるようになっている。各章のまとめもあり、至れり尽くせりの構成だ。著者のあとがきの通り、本書をきっかけに、類書の刊行が増えることを、私自身も願ってやまない。
この記事の中でご紹介した本
図書館の日本史/勉誠出版
図書館の日本史
著 者:新藤 透
出版社:勉誠出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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