智恵子抄 書評|高村 光太郎( 新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年3月2日 / 新聞掲載日:2019年3月1日(第3279号)

高村 光太郎著『智恵子抄』

智恵子抄
著 者:高村 光太郎
出版社: 新潮社
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智恵子抄(高村 光太郎) 新潮社
智恵子抄
高村 光太郎
新潮社
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二〇一八年末のNHK紅白歌合戦に今を時めく米津玄師が出場し、連続ドラマ『アンナチュラル』の主題歌である『Lemon』を歌いあげた。この曲は非常に人気があり、カラオケのランキングでも一位を総ナメしているらしい。

この『Lemon』という曲は、「レモン哀歌」を元として作ったと米津さんがどこかのインタビューで答えていたことを記憶している。「レモン哀歌」というのは、彫刻家や画家、そして詩人として活躍した、高村光太郎によって紡がれた詩集『智恵子抄』に収録されている詩の一つである。米津の歌詞の節々に『智恵子抄』に収録されている、「レモン哀歌」以外の詩を思わせるような単語もあるため、「レモン哀歌」というよりは『智恵子抄』全体を元にしたのではないだろうかと思う。

『智恵子抄』は愛の詩集だ。高村光太郎が、妻・智恵子と出会い、「清浄」されて、精神分裂症を患った妻をひたすらに支えて、妻が亡くなった後も愛し続けた、その証だ。夫妻が結婚する前から智恵子が亡くなった後までの、30年にもわたる年月の中で光太郎が妻へ宛てて書いた詩を収録している。愛の詩といっても、あまったるいというわけではない。「人に(いやなんです)」「あなたはだんだんきれいになる」といった粉砂糖のようにきらきらと輝いている甘い詩もあれば、「レモン哀歌」や「梅酒」のような、それこそお酒のようにほろ苦いけれど止められない、そんな詩もある。

『智恵子抄』はいくつかの出版社から出ているが、私は中でも新潮文庫版の『智恵子抄』が好きだ。理由としてはいくつかあり、まず他版元では初版に準じて、「『智恵子抄』」「『智恵子抄』補遺」の順に掲載されているが、新潮文庫版では、両方を合わせて作品が全て年代順に並べられているということ。年代順に読むことで、光太郎の幸せ、喜び、そして嘆き、悲しみがより伝わってくるように感じる。次に、表紙、及び冒頭のカラーページを飾るのは、智恵子によって作られた切抜絵の作品ということ。これが非常に素晴らしいもので、またそれらは智恵子が光太郎にだけ見せるために作り続けたものであることが巻末の文章で分かる。最後に、巻末の文章に詩人の草野心平による高村夫妻のエピソードが書かれている文章があること。それがまたどうしようもなく悲しくて切ない、けれどとてつもなく素敵なエピソードなのだ。

この草野心平の文章の中に先ほど挙げた切抜絵のエピソードもあるのだが、私が思わず涙してしまったのは、光太郎が、草野を「喫茶店ともバアともつかないとこ」に呼び出した時に投げかけた言葉だ。思わず息を飲み、何も言えなくなってしまう。静かに涙を流しながら残りの数ページを震える手で捲ったことを覚えている。是非読んでみて欲しい。

『智恵子抄』はぜひとも、夜中に大切な人のことを考えながら読んでみて頂きたい。できればお供として「梅酒」を片手に。
この記事の中でご紹介した本
智恵子抄/ 新潮社
智恵子抄
著 者:高村 光太郎
出版社: 新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「智恵子抄」出版社のホームページはこちら
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