連載 現代化の功罪 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 96|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年3月5日 / 新聞掲載日:2019年3月1日(第3279号)

連載 現代化の功罪 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 96

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映画祭の合間に(右端がドゥーシェ、1965年頃、アヌシーにて)
JD 
 真実というものは一様なものではありません。真理は、真実を明かすだけである。真実は、見せかけのはるか彼方にある。真理のはるか、上方にあるのです。そして真理はそれ自体で、真理についての真実よりもはるかに富んだものなのです。
HK  
 いずれにせよロッセリーニには、いま話した二つの側面以外にも、映画史の中で重要な役割がありました。古典的シネフィルと現代的観客の間の断絶を生み出しています。つまり、現代的観客は映画の全体に瞑想するようにして入り込まなければいけなくなったのです。
JD 
 当然、それもロッセリーニの果たした大きな功績です。
HK  
 古典的観客にとっての、例えばマルセル・カルネとはいかなる存在であるか。一本の作品を見るとします。画面の奥に去っていくルイ・ジューヴェを映す、美しい画面が現れます。また別の作品では、美しいパントマイムが行われます。いくつもの美しいシーンが記憶に残っています。そして、観客はその美しいシーンを、思い出の中で自由にモンタージュすることができます。
JD 
 その通りです。しかし、有用なものではありません。
HK  
 (笑)
JD 
 (笑)
HK  
 ロメールは「ロッセリーニの映画で重要なのは、自らの存在を信じなければいけない私たち自身である」と言っていました。
JD 
 事実です。いい意味でのドキュメンタリーと正面から立ち向かい、真実を見た瞬間から、本来ならば世界に存在しているはずなのに、普段は目にすることのない事実に向き合うことになるのです。そして、その「生」の真実を解き明かさなければいけなくなるのです。解釈を求めるものでありながらも、実は「生」という現実そのものの動きです。生というものは当たり前のように与えられていると思われていますが、それぞれが解釈しなければならないということです。

一つ例をとりましょう。世界中で最も賢い男と、最も愚かな男—最も平凡な男としてもいいでしょう—がいるとします。そこに突如として、すぐにでも対処をしなければならない大惨事が起きます。賢い男は、状況を何度も分析し、解決策を探し出そうとします。あちらこちらへと考えを巡らせるうちに、状況は悪い方へと向かっていきます。その一方で、愚かな男は、本能的に惨事から逃げ出します。このような場合、どちらの方が聡明だったと言えるでしょうか。
HK  
 その場合ならば、答えは明白ですね。
JD 
 問題の本質を見極めることができなければ、どれだけ思考を巡らせても無駄に終わってしまうことがあるのです。
HK  
 映画の現代化の過程において、それ以前のシネフィルとは異なり、シネフィリーの新しい形で、「現代的シネフィル」が生まれたと思います。この「現代的シネフィル」という言葉はシネフィリーとはまた別の観点から捉えられるかもしれません。従来のシネフィルが持っていた、スターや世界観に対する憧れからは遠ざかり、映画作品と向き合うことになっています。シネフィル以外の観客にも、少なからず大きな影響があったので「現代的観客」とします。そして、その「現代的観客」が、多少なりともエリーティズムを生み出してしまったのではないでしょうか。
JD 
 そうかもしれません。しかし、それは映画に限ったことではありません。ありとあらゆる領域で同じことが起きています。芸術一般に関しても事実です。更に言うならば、経済の中でも同様の現象が起きています。
HK  
 経済もですか。
JD 
 経済システムの中で、つまり産業というシステムの中でです。創造が問題となった瞬間から、想像が付きまといます。そして想像が不可欠なところには、強い危険が伴います。非常に残念なことですが、限られた領分で工夫を凝らし、何かを発見したと信じる人々が生み出したものは、取るに足らないものであることが多くあります。
〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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