アメリカ左派の外交政策 書評|マイケル ウォルツァー(風行社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月9日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

アメリカ左派の外交政策 書評
挑発力のある議論を
左派がとるべき立場を旗幟鮮明に示す

アメリカ左派の外交政策
著 者:マイケル ウォルツァー
翻訳者:萩原 能久
出版社:風行社
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本書のねらいは対外政策をめぐって「左派」が従来とってきた姿勢を批判することにあり、読者として想定されているのも「左派」である。その場合、「左派」に属するのは誰か。「左派」を自認する誰もがというのが著者の答えだが、本書の議論に照らせば、自由、平等、民主主義、そして宗教の多元性を普遍的に擁護されるべき価値とみなし、それにコミットしようとする者すべてということになろう。

では、左派のどこに問題があると著者は見るのだろうか。①外交・安全保障政策に対する理解がそもそも浅く、問題関心が内向きに閉じがちである。道徳的緊急性があると認めても、積極的な介入行動への支持を原則的に避けようとする。②アメリカのあらゆる行動に「帝国主義」の疑念を抱き、逆に、反米的と目されるすべての勢力を支持しがちである。③被抑圧者一般への批判を回避し、その行動をあいまいに是認しがちである。そして、④「イスラーム嫌悪」のレッテルを貼られるのを極度に恐れ、宗教的熱狂のもつ破壊力をとらえ損なっている。名指しで批判されているのは、現代ではN・チョムスキー、S・ジジェクらの知識人である(少し遡ればJ=P・サルトルなど)。

この批判を裏返せば、著者自身が擁護しようとする「左派国際主義」の立場が見えてくる。①「保護する責任」にもとづく人道的介入を躊躇しないこと。国内と国外で実現されるべき正義は異なっており、「グローバルな正義」とは「いまここ」での人権侵害を阻止することにある。その場合、人権はミニマルに解されるべきであり、大量殺戮や民族浄化からの保護が優先される。②そうした人権侵害の多くは、国家の破綻ないし不在によって惹き起こされており、安定した主権国家体制を築いていくことは、人権侵害を起こさせないためにも、気候変動などグローバル・イシューに対処していくためにも不可欠である。そして、人権侵害に実効的に対応するためには、アメリカのヘゲモニーを端から否定すべきではない。③左派は「区別の政治」(二正面作戦)に習熟する必要がある。反米、反イスラエルであるからといって、独裁や暴政を擁護する理由にはならない。一般に、被抑圧者であるとしてもその行動のすべてが正当化されるわけではない。④狂信にもとづくテロはもとより、宗教的な習律・慣行にも普遍的価値に照らして真剣に批判を加えるべき面がある。敬意を払うことと批判を慎むこととは同義ではない。

このように著者は左派がとるべき立場を旗幟鮮明に示す。その立場は、理想理論ではなく非理想理論、コスモポリタニズムではなく国家主義(statism)、不正義の尺度となる人権概念を膨らませない道徳的ミニマリズムとして特徴づけられるだろう。国際社会において共有されるべき普遍的価値は「薄い」(thin)が、であるからこそ、その価値の実現は実効的なものでなくてはならない。本書の強調する「まともさ」(decency)とは何よりもまず心身に加えられる暴力の回避であり、「残酷さ」(cruelty)を避けることをリベラルにとっての最優先の価値とみなしたJ・ シュクラーやM・イグナティエフらのラインに著者も立つ。

著者は、アメリカによるアフガニスタンへの軍事介入を支持したことで多くの批判を浴びてきたが、本書でも、秩序構築への関与からアメリカが手を引こうとしていることをむしろ非難しており、その立場に変化はない。現に生じている不正義(人権侵害)に対処できる力をもつ者がその力の行使を、という本書の主張はたしかに力強い。しかし、それが(本書も求める)不正義が生じにくい体制の構築をもたらすかについては大いに疑問も残る。実効性を重視することで逆に軽んじられる事柄(国際機関や多国間協調への信頼の醸成など)があり、選択的な介入を正当化するプラグマティックな判断はやはり道徳的恣意を免れない。そのつどの不正義への対処の積み重ねは、その将来にわたっての縮減を本当に導くだろうか。

左派に向けて書かれた本書の議論には並大抵ではない挑発力がある。著者の立場に与しないとしても、提起される問いにどう応答できるか、真剣な検討を促される。
この記事の中でご紹介した本
アメリカ左派の外交政策/風行社
アメリカ左派の外交政策
著 者:マイケル ウォルツァー
翻訳者:萩原 能久
出版社:風行社
以下のオンライン書店でご購入できます
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