近現代日本史との対話 幕末・維新ー戦前編 書評|成田 龍一(集英社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月9日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

誰がどのように歴史を語るか
東アジア情勢が「転換期」にさしかかっている中で

近現代日本史との対話 幕末・維新ー戦前編
著 者:成田 龍一
出版社:集英社
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著者は元より歴史家として、また近代以降の歴史学そのものの史的な位置づけを謀る史学史家としての挑戦を続けて来た。言い換えると、歴史学そのものの歴史性を問うて来た歴史家である。本書は、そんな著者が敢えて、通史として日本の近現代史を叙述せんとした意欲作ということになる。したがって、本書は通史でありながら、歴史叙述の方法そのものに自覚的である節が端々に見え隠れする。ここで問題となるのはまさに、私たちが自明としている既成の歴史叙述そのものが、一九世紀から二〇世紀にかけて歴史的に産出された「システム」にほかならない、という事実である。ウェスタンインパクト以来の一九世紀から二〇世紀において、そもそもそれ以前の一八世紀、一七世紀、一六世紀…といった「世紀」概念による歴史の叙述――すなわちヨーロッパ近代による歴史意識――が生じたことになる。その意味において、これにかかわる「自覚」はヨーロッパ近代を受け入れる側にとっての潜在的な「痛覚」をも表わしている――私はそのように本書を読んだ。

以上述べた方法論的かつ存在論的な前提の上で、さらに本書は、読者に読みやすくするための工夫を随処に引き受けてもいる。それは例えば、国家の発展を主軸とする叙述から離れ、なおかつその国家からも離れずに、歴史を動かす動力を「システム」及び「システム」の交代に見いだす構成的発想である。ここでのシステムとは、「国民国家の形成」、「帝国主義への参入」、「総動員体制の確立」などの動的概念をベースにしているが、著者は便宜的にそれらをA1、A2、B1…などと名付け、その「システム」の間の交代を連続性、不連続性の相のもとに叙述するのである。さて、ここで想起されるのは、たとえば宇野経済学の資本主義の段階論に似た試み、さらには柄谷行人が「交換システム」の種別性を理論的に整理し、あらたな世界史像を作り出そうとした試みである。いうまでもなく、ここでの「システム」とは構成する意志によって作られた構造のことである。

いずれにせよ、そういったすべての著者の努力はまた、脱歴史化した今現在を揺り動かすことに向けられている。ここにおける潜在的課題となるのは、歴史叙述の前提となる私たちの自由意志の欠如の自覚である。ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』が明らかにしたように、意志を欠いた自由の行き詰まりこそが、脱歴史化した現在の(自由民主主義の)危機そのものであるのだから。

このことが問われるのは、まさに同じ歴史を繰り返すことは原理的にあり得ないはずであるのに、なぜか歴史が反復=構造として見えてしまうこと、あるいは敢えて反復=構造として歴史を見ること――ここに「システム」として歴史を見ることの必要が見出される。特にそれは私たちにとって、目下の東アジア情勢――日清、日露の戦争が朝鮮戦争とその後の東アジア冷戦情勢において反復されている――が構造的反復として見えてしまう事態にほかならない。それと関連して、ここでの反復=構造は、過去の植民地問題が鋭く日本社会の意識/無意識の排外主義的言動において露出すること、等々にも示されているだろう。確かに、それらが示しているのは、目下の東アジア情勢がまさに「転換期」に指しかかっていること、つまり本書が言うところの「システム」の交代がまさに目前に迫っている徴候でもあろう。

最後に、本書は日本の高等学校の新必修科目「歴史総合」にも対応した、実に戦略的な試みであることも申し述べておきたい。今日「歴史離れ」が多くの場面で嘆かれつつも、一方では奇妙な「歴史ブーム」が広がっている。そこにまっとうな歴史家はまず登場しないのだが。にもかかわらず、そういった現象もまた「システム」交代の徴候なのだ。いわばこの歴史家の受難の時代においてこそ、誰がどのように歴史を語るかという原理的な問題が再帰し、かつ過去の東アジアにおける痛みを伴った歴史が激しく反復して「現在」に立ち現れているのだ。本書のチャレンジは、まさにここに集中されてある。
この記事の中でご紹介した本
近現代日本史との対話 幕末・維新ー戦前編/集英社
近現代日本史との対話 幕末・維新ー戦前編
著 者:成田 龍一
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
「近現代日本史との対話 幕末・維新ー戦前編」出版社のホームページはこちら
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