江戸の古本屋 近世書肆のしごと 書評|橋口 侯之介(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月9日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

江戸の古本屋 近世書肆のしごと 書評
「本屋」とは? 「書物」とは?
江戸の本屋と、本をめぐる環境が変わる現在と

江戸の古本屋 近世書肆のしごと
著 者:橋口 侯之介
出版社:平凡社
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本屋で本を見て買うという機会が、この頃減ったと思う。先月出版された文庫本を、スーパーの中の書店で探した。しかし、文庫のコーナーはすでに今月の新刊に変わっており、目当ての本は著者別の棚にもなかった。

家に帰ってインターネット通販で検索すると、配送料無料で翌日には届くという。新品だけでなく、すでに半値となった中古品も販売されていた。レビューも読むことが出来るし、電子書籍版があれば選択肢も増える。そこで買えば、同じ著者の本が出た時や関連しそうな内容の本について知らせてくれる。最近の機械の中の本屋は、なんと親切なのだろう。

しかし、江戸時代の本屋はこれくらいのことは普通にやっていたのだ。題名の「古本屋」とは、江戸時代の本屋は新刊本を出版・販売するだけではなく、古本も扱うのが普通であったことを指し、本の企画・出版・販売はもちろんのこと、客の求めに応じて古本を扱い、手に入りにくい本は写本を作る。京・大坂・江戸という三都の本屋と地方の本屋を結んで、本は流れていき客の元へと届いていく。そうした本の流通の実態について、煩雑ではあるが資料を元にして丁寧に示している。

江戸の本屋は本を作り、売り、読み、伝えるという仕事をしていた。顧客に勧めるためには「読む」作業も必要である。本はただ一人の読者だけで終わることなく次の世代へと伝えていくものであり、古本という形で新たな読者の元へ渡すことも仕事である。現代の、出版社・取次・本屋から客という分業体制とは異なり、本屋には作り手も読み手も見えていた時代だった。

現在、ここで説明される江戸の本屋の仕事が、タイムカプセルのように詰まっている津の石水博物館所蔵川喜田家の書簡調査に参加している。江戸の岡田屋嘉七・京の恵比須屋・大阪の藤屋・津の山形屋など書肆の書簡からは、本の出版・売買、写本の作成、古本の取り扱いの実態が読み取れる。そこでやりとりされた本は、今も同博物館に保存されている。

読みたい本を探すことの大変さがわかると、店頭に本がないくらいで文句を言ってはいけないとは思うのだが、そこで注文して一週間後に取りに来ようとは思えないのが現代人だ。

終章では、江戸の本屋たちが壊滅した明治二十年の書籍をめぐる環境の変化が述べられている。出版物に対する価値観の変化、技術の進歩、法制度の変化、資本の発達など多方面で本屋と本を取り巻く環境が激変した。このような急激な変化が、現在起きようとしているのではないかと、著者は言う。確かに本をめぐる環境が再び大きく変わろうとしている。出版不況と言われて久しいし、紙の本から電子書籍への流れは勢いを増している。

電子版『広辞苑』第七版で「本」を引くと、三番目に「書籍。書物」とある。「書物」を引くと「文字や図画などを書き、または印刷して一冊に綴じたもの」と出てきた。書物は、知識や娯楽を伝える働きをしてきたし、書物の作成や流通が文化を形作ってきた。

デジタル本も綴じたものだろうか。古いバージョンは、新しい機械では読めなくなるから、電子書籍では「古本」という考え方も変わるだろう。ネット小説や縦読みマンガなど本の形態も変わってきて、書き手と読み手がダイレクトにつながるものもある。

江戸時代の本屋を取り上げつつ、本をめぐる環境が変わっていく現代であるからこそ、「本屋」とは? 「書物」とは何かについて、改めて問いかけてくる一書である。
この記事の中でご紹介した本
江戸の古本屋 近世書肆のしごと/平凡社
江戸の古本屋 近世書肆のしごと
著 者:橋口 侯之介
出版社:平凡社
以下のオンライン書店でご購入できます
「江戸の古本屋 近世書肆のしごと」出版社のホームページはこちら
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