貿易商人王列伝 書評|スティーヴン R ボウン(悠書館 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月9日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

貿易商人王列伝 書評
経済成長と帝国主義の担い手
国家が貿易独占権を付与した特権商事会社の商人たち

貿易商人王列伝
著 者:スティーヴン R ボウン
翻訳者:荒木 正純
出版社:悠書館
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現在の欧米の商業史研究では、近世の商人は「企業家」と呼ばれることが多い。商人が経済成長の主役だったという意味からである。

さらに本書はまた、国家が貿易独占権を付与した特権商事会社で活躍した商人を中心に扱っている。これらの会社が貿易の独占権を得たのは、本国からあまりに遠い地域での商業活動を国家が推進しようという意思の現れであった。

たとえば英蘭の東インド会社は軍隊を有していたが、それは戦争が生じた場合、いちいち本国へ政策を打診しては間に合わなかったからである。逆に言えば、船舶がスピードアップし情報が簡単に送れるようになると、そのような会社は不要になり、国家は、植民地を、会社を通さずに直接支配できるようになる。

オランダ東インド会社のヤン・ヒーテルスゾーン・クーンは、まだ国家の力が弱かった17世紀にオランダ政府の利害を代弁し、過酷な統治、さらには殺戮さえおこない、オランダのアジアにおける影響力の増加、貿易による利益の獲得に従事した人物である。

また、オランダ西インド会社は、現在の研究では、かつて考えられていたよりも多くの利益をオランダにもたらしたとされる。ただ、その活動の中心は本書で書かれている北米大陸ではなく、カリブ海諸島であり、現在のニューヨークに拠点を置いたピーテル・ストイフェサントの活動は、失敗する運命にあった。

イギリスの対外進出は、18世紀後半になると、現実には新世界からインドへと移りつつあった。ロバート・クライヴはそれに大きな役割を果たした。たとえば、フランス東インド会社との戦いで勝利を収め、イングランド東インド会社はインド統治のために徴税権を持つようになり、この会社に国家と同等の権限が付与されたのである。

遅れて対外進出に参加したロシアも1799年には露米会社をつくり、アラスカの開発に乗り出すことになった。そこで中心的な役割を演じたのが、ロシア商人アレクサンドル・アンドレーエヴィチ・パラノフである。先住民とも争い、会社の活動範囲を拡大し、とくにラッコの毛皮の販売で利益を獲得した。ラッコやビーヴァーの毛皮交易こそ、シベリアのロシア人に巨額の利益をもたらしており、シベリアでの活動の沿線上にアラスカの商業戦略があったことが読み取れる。

ビーヴァーの毛皮は、18世紀の北米大陸の貿易で大きな利益をもたらした商品であった。19世紀初頭にハドソン湾会社で創設されたのは、おそらくそのためであろう。この交易の利益を知っていたジョージ・シンプソンは、大量の毛皮をロンドンに輸送した。それはまた、アメリカ独立後も、北米の利害がイギリスと強く結びついていたことを表す。

最後に登場したセシル・ジョン・ローズは、イギリスの南アフリカにおける帝国主義を体現した人物である。イギリス南アフリカ会社の創業に関わり、デ・ビアスを創設し、ダイヤモンドの取引で大きな利益を得た。ダイヤモンドは元来、インド以外にはほとんど見つかっていなかったが、18世紀になりブラジルで、19世紀末に南アフリカで発見された。

ダイヤモンドがイギリス人によって南アフリカで発見されたことは、ヨーロッパの帝国主義的拡張の勝者がイギリスであり、帝国主義国家の利害を象徴する人物にローズが位置することを示す。ヨーロッパ諸国の帝国主義には、彼のような人物が不可欠だったのである。商人は、経済成長と帝国主義の担い手であったのだ。
この記事の中でご紹介した本
貿易商人王列伝/悠書館
貿易商人王列伝
著 者:スティーヴン R ボウン
翻訳者:荒木 正純
出版社:悠書館
以下のオンライン書店でご購入できます
「貿易商人王列伝」出版社のホームページはこちら
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