全身芸人 本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて 書評|田崎 健太(太田出版 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月9日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

その異形、芸への飽くなき執念、人生の迷走と破綻ぶり…

全身芸人 本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて
著 者:田崎 健太
写真家:関根 虎洸
出版社:太田出版
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テレビ東京「昼めし旅」は、地方を旅して一般人の昼飯を見せてもらう番組。このレポーターに、絶妙なB級タレントが起用される。先日、千葉県野田市を「東京03」というコントグループの角田晃広が歩いていた。おかしかったのは、取材を受けた農家の老人が途中で、「今日のゲストは?」と角田に聞いた。ディレクターと間違えていたのだ。この間違いは、のちもう一度起きた。外見があまりに普通で、とても芸人には見えなかったというわけだ。

角田に限らない。いまテレビを席巻しているお笑芸人の多くは、見た目は一般人と変わらない。顔を知らなければ、コンビニでレジ打ちをしていても、べつに変だとは思わないだろう。それほど普通だ。田崎健太が取り上げる芸人たちは違う。月亭可朝、松鶴家千とせ、毒蝮三太夫、世志凡太と浅香光代、こまどり姉妹たちは、写真を見ただけでギョッとする。いずれも八十歳を超えて現役だが(可朝のみ死去)、その異形、芸への飽くなき執念、人生の迷走と破綻ぶりは、軽々と一般社会からはみ出している。すなわち『全身芸人』。著者はそれこそ「本物」と判定し、取材を通し、置き換えのできない彼らの生を伝えるのだ。

まずは可朝がいきなり凄い。落語家としては異端。コード三つ覚えて作った「嘆きのボイン」(一九六九)が累計八〇万枚の大ヒット。最初に振り込まれた印税が三〇〇万、大卒初任給が三万強の時代に、同じだけ毎月懐ろに入った。一躍人気者となり、おとなしく暮らせば一生ものだが、博打でスッてしまう。「博打はシャブや」と言うが、今の社会では発言そのものがアウトだ。

参院選出馬を宣言し、記者会見で「公約」を質問され、「一夫多妻制の確立と、風呂屋の男湯と女湯の仕切を外すこと」と答えた。七〇歳で元交際相手の女性にストーカー行為で告発とめちゃくちゃ。可朝は取材後、二〇一八年に昇天。ようやく人生が落ちついた。

「ババァ、元気か!」で愛される「日本一の毒舌男」毒蝮三太夫、女剣劇(浅香光代)とジャズ屋出身のコメディアン(世志凡太)が老年で結ばれた「芸能界最強の夫婦」、現実味がないほど過酷な人生を送った「最後の門付け芸人」こまどり姉妹と、狂気を孕みつつ、熟成し練り上げた「芸」の真髄を、本書は舌なめずりするように描き込む。

著者のいいところは、芸人を変に持ち上げたり、猫なで声を使わないこと。ある種冷酷なほど、芸人たちの過去と現在を見つめ、彼らの立つ足場を見届けている。「わかるかな? わかんねえだろうな」という不思議なピン芸で、一九七〇年代半ばに一世を風靡した松鶴家千とせ。その「元祖・一発屋の現在」を活写した章は圧巻である。有名なネタ「俺が昔、夕焼けだった頃、弟は小焼けだった。父さんは胸焼けで、母さんはシモヤケだった」は、彼の半生を追うことで、「何の変哲もない駄洒落」に、「人生がぶら下がっている」と、これはよく「わかる」のだった。
この記事の中でご紹介した本
全身芸人 本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて/太田出版
全身芸人 本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて
著 者:田崎 健太
写真家:関根 虎洸
出版社:太田出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「全身芸人 本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて」出版社のホームページはこちら
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