ノマド 漂流する高齢労働者たち 書評|ジェシカ・ブルーダー(春秋社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月9日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

ノマド 漂流する高齢労働者たち 書評
これがアメリカの現実だ。
巨大企業が、漂流する高齢労働者によって担われている事実

ノマド 漂流する高齢労働者たち
著 者:ジェシカ・ブルーダー
翻訳者:鈴木 素子
出版社:春秋社
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ノマドというから、遊牧民のようにオフィスを渡り歩くフリーの労働者のことかと思ったら大間違いである。このルポルタージュで詳細に記述されている労働者は、2010年代のアメリカ大陸をまさしく漂流している高齢者たちである。キャンピングカーなどに車上生活を余儀なくされているホームレス状態にある高齢者たちをルポしているのが本著だ。

なんらかの事情でホームレス状態になった人が、車上生活をしているだけならば、どの国においても、それほど珍しいことではない。本著で扱われるノマドは、ワーキャンパーとも呼ばれる。ワーキャンパーとは、「キャンピングカーで移動しながら働くという意味で、ワークとキャンピングとの合成語だという。つまり、車上生活をしながら漂流し労働している人びとなのである。

住居を失っていくプロセスも多様である。ウーバーによって追い落とされ、客をとれなくなったタクシー運転手で生活に困窮し家賃が払えなくなった男性、リーマンショックによって、ローン破綻して家賃が払えなくなった女性などなどさまざまである。大きな状況としては、賃金の上昇率と住居費の上昇率とがあまりに乖離した結果、中流クラスの生活をすることが困難になっている人が続々と増えているという。住居費を収入の30%以下におさえたければ、全米の連邦最低賃金7・25ドルの倍以上、時給で16・35ドルの賃金がないといけない。そんな賃金を得られる仕事がなくなっているのだ。そのため、家賃を払えない労働者が増えている。特に、高齢者は、公的年金が少ないために厳しい貧困状態におかれている。さらに、一人暮らしの高齢女性は、男性以上の貧困状態におかれる。賃金が男性よりも低いために公的年金の金額も男性よりも低いためだ。

こうした低賃金の高齢者たちを活用しているのが、アマゾンだ。クリスマス商戦など季節で変動する労働力需要に応じて、ワーキャンパーを集める。住居の準備もいらない。キャンプ場に住んで、一時期を低賃金の労働者として雇用して、必要がなくなればサヨウナラだ。雇用期間も短いために、労働組合が結成される「リスク」も少ない。そもそも、きつい労働なので仕事終わりに労働者どうしが交流する余裕もない。アマゾンからすれば、使い勝手のいい労働者だ。アマゾンは、ワーキャンパーに標的をあわせて「キャンパーフォース」という名称を与えて、独自ロゴも作りウェブサイトで募集する。生活保護利用者やフードスタンプ(政府が支給する食料配給券)利用者を雇用すれば、アマゾンには国の税額控除が与えられる。アマゾンが大量の高齢者を雇用するのは、低賃金で労働者を雇用したうえで、さらに税の控除が受けられるからだ。移動する低賃金労働者と貧困とが、アマゾンの倉庫維持には不可欠の存在になっているというのだ。巨大化する大企業が、漂流する高齢低賃金労働者によって担われているという現実。これがアメリカだ。読後しばらくショックで動けなくなる。
この記事の中でご紹介した本
ノマド 漂流する高齢労働者たち/春秋社
ノマド 漂流する高齢労働者たち
著 者:ジェシカ・ブルーダー
翻訳者:鈴木 素子
出版社:春秋社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ノマド 漂流する高齢労働者たち」出版社のホームページはこちら
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