〈芥川賞について話をしよう〉第15弾(小谷野敦・小澤英実)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月10日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

〈芥川賞について話をしよう〉第15弾(小谷野敦・小澤英実)

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第2回
中二病的モノローグ

小澤 英実氏
小澤 
 もうひとつの受賞作「1R1分34秒」はいかがですか。小谷野さんは、前回の候補作「しき」を高く評価されていましたが。
小谷野 
 前回との合わせ技での授賞というのならば、異議はない。ただ、私は、ボクシング嫌いだから、好きな小説ではありませんね。死んだり、廃人になる人がいるスポーツなんて、何がおもしろいのか。
小澤 
 文学者には、ボクシングを好きな人が多いですよね。石原慎太郎や安部公房、寺山修司、アメリカ文学だとネルソン・オルグレンやジョイス・キャロル・オーツも大ファンです。
1R1分34秒(町屋 良平)新潮社
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町屋 良平
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小谷野 
 それこそマッチョイズムじゃないですか。町屋君のボクシングの描写を読んでいると、小澤さんが言った石原慎太郎を思い出したんですよ。ジャズの演奏を描写する『ファンキー・ジャンプ』という小説があって、「サックスが入ってきた」みたいに書いている。ボクシングの試合のシーンの描写も、そういう感じに似ているんですよ。
小澤 
 私もボクシングには疎いですが、技術的な描写は飽きずに読め、迫真性もありました。以前から町屋さんの新鮮な言語表現には期待していたし、授賞に文句はないです。ただ今回は、モノローグが全体的に歌詞っぽくて、痛すぎる感じがした。吉田修一さんも、「今後、作詞でも始めれば、時代の空気を摑むフレーズをさらさらと書ける人なのかもしれない」と選評で言っていましたが、冒頭から「日中も朝方のようなルクスしか確保できないこの部屋に、しかし奇妙な愛着をもっていた」とあって、「ルクス!」と突っ込んでしまいました。こんな独白もあります。「ボクサーでしかありえない情緒がそこにある。血で濡れたiPhoneがそんなにだいじか?」「そんな毎秒が積み重なって命が矛盾するんだ」「自分じゃなく、世界を変えたい。自分の目のレンズを濁して世界を修正するのはもういやだ」。Jポップの歌詞にありそうですよね。もちろん、ボクサーのステレオタイプなイメージを覆す、思索的でナイーブな文化系男子なのが面白いところだし、二一歳のボクサーの内面に最適化した確信犯的な語りなんだと思いますが。全編がこういうトーンになっていて、狙いとはちょっときつい。町屋さんの小説は言葉が魅力ですが、今回は中二病みたいな感じになっている。
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