パーク・ライフ 書評|吉田 修一(文芸春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
更新日:2019年3月7日

他の小説にはないような比喩表現

パーク・ライフ
著 者:吉田 修一
出版社:文芸春秋
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パーク・ライフ(吉田 修一)文芸春秋
パーク・ライフ
吉田 修一
文芸春秋
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 今回の書評は、第127回芥川賞を受賞した吉田修一さんの「パーク・ライフ」(初出・『文學界』2002年6月号)。

主人公はバスソープや香水を扱う東京の会社で働くサラリーマンの男性。ある日、電車の車内でさっき降りたばかりの同僚と間違えて見知らぬ女性に話しかけてしまうという、なんとも恥ずかしいことをしてしまう。

しかし、女性は彼の質問に平然と答える。電車を降りた後もその不思議な女性のことを忘れられない主人公はいつも昼休憩をしている日比谷公園でその女性と再会する。

「あなた、いつもあそこのベンチに座ってるでしょ?」

「この公園で気になっている人が二人いるの。その一人があなただったの。」

彼女は、彼を何度もこの公園で見かけ、ベンチに座りながら何かを見ているようで見飽きないから気になっていたという。その日から時々日比谷公園で会っているうちによく話すようになる。恋仲でも友達もない、昼休みの日比谷公園で不思議な仲となっていく二人の男女の物語だ。

びっくりしたのはこの本の作者、吉田修一さんだ。映画「怒り」の原作者だとは思わず、また、以前に小説で読んだ「横道世之介」の作者と同一人物だということにとても驚いた。「怒り」は、映画の予告編で凄いミステリーで怖そうだなという記憶があった。一方で「横道世之介」は、ほのぼのとして面白かったという記憶があるのでこの作品と同じ作者だということには納得できた。ミステリー系の「怒り」と、ほのぼの日常系の「横道世之介」「パーク・ライフ」は、全く正反対ともいえるジャンルの作品だ。

オフィシャホームページがあったので見てみると、数多くの人気作品を発表しているのが分かった。その中に「BOOKNAVIGATION」というページがあった。▽一行をかみしめる▽物語を楽しめる▽草食系▽肉食系――の4つに分類された代表作が紹介されている。「パーク・ライフ」は▽一行をかみしめる▽草食系に分類されていた。数学で習う座標軸でいえば第二象限の場所だ。確かに、一行一行があまり他の小説にはないような比喩表現だった。

例えば「有楽町マリオンビルを誕生日ケーキの上飾りに譬え、上空から鋭いナイフで真っ二つに切ったとすると、スポンジ部分には地下鉄の駅や通路がまるで鉢のように張り巡らされているに違いない」「外側だけが個人のもので、中身は全部人類の共有物。ちょうどマンションなんかと正反対」。私はここの文章がお気に入りだ。

いままでは、ハラハラドキドキの物語だけを楽しんできた。しかし、純文学を読むと思うのだが、一回読んでストーリーを理解するだけでは分からない。ゆっくり読み直したときに感じる一行一行の丁寧さと、好きだな、面白いな、と思う表現、言い回し、文章を楽しむという自分にとって新しい本の楽しさに気づいてきた今日この頃である。

皆さんには、公園での出会い、想い出はあるだろうか。私が思い出すのは、旅先で出会った見ず知らずの同年代の子供とシーソーや滑り台をして遊んだこと。小学6年生の時に初めて友達と缶蹴りをしたこと。最近では通学路途中の公園で自分たちの体が大きくったのを忘れて小さい子が遊ぶシーソーで学校の友達と遊び、楽しんだこと――。

中学生になって公園で遊んでいると他の人に少し白い目で見られてしまう。最近耳にする公園で遊ぶ子供が少なくなってきたというニュースには悲しい気持ちになる。でも私はポカポカした日の公園が好きだ。噴水の前のベンチに座って五感を研ぎ澄ませる、なんと気持ちの良いひと時だろうか。公園はどの世代にとっても憩いの場。その場所には一人ひとりの人生、記憶が詰まっているのかもしれない。
渡辺小春
「日比谷公園で休憩。いよいよ受験!頑張ります」
この記事の中でご紹介した本
パーク・ライフ/文芸春秋
パーク・ライフ
著 者:吉田 修一
出版社:文芸春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「パーク・ライフ」出版社のホームページはこちら
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