【横尾 忠則】80年代、日本は一体何を何処を見ていたんだ?|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2019年3月12日 / 新聞掲載日:2019年3月8日(第3280号)

80年代、日本は一体何を何処を見ていたんだ?

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2019.2.25
 〈国書刊行会ノ清水サント元平凡社ノ及川サント、オ茶ヲト思ツテ、ホテルニ入ルト、エレベーターガナイノデ8階ノ喫茶室マデ階段デ、ト言ワレタノデ、ホテルヲ出ル〉

ドナルド・キーンさん死去。キーンさんとは何度か会って、長寿の秘訣は? と聞くと、「よく動いて、よく食べて、よく話す」ことだと。またキーンさんから肖像画を頼まれたけれど、しばらくして、「横尾さんは死んだ文学者ばかり描くので、もうしばらく先き伸ばしにしたい」と。縁を担ぐところもキーンさんの日本文化かも知れない。

保坂和志、磯﨑憲一郎さんらとの『文藝』の〈アトリエ会議〉は今回で終了。何とか継続をと朝日新聞の中村さんの希望で朝日のネットに移ることになって延命。
2019.2.26
 〈テレビデ素浪人ニ変装シテ、椿三十郎ミタイニ、サツト抜刀スルシーンヲ演ジルコトニナツタ〉夢を見るが、だったら無精髭を伸ばした方がリアルでいいのではと目覚めたあともしばらく顎をさすりながら真剣に考える。

『芸術新潮』の大久保さんに梅原猛さんとのスーパー狂言の美術制作時のエピソードを語る。三作品に関わったが、どの作品も現実を予知したものばかりで、さすが怨霊の梅原さんだった。もう一本破天荒で無限大に生きたあの「一休」の美術を頼まれていたのに。

夕方まで一点描く。

妻が歯医者ストレスで胃痛を起こす。病院嫌いの彼女を無理矢理、向いの水野クリニックへ。処方薬を間違って血圧の薬を飲んだが「それで治った」とキョトンとしている。「鰯の頭も信心から」と言うではないか。
2019.2.27
 〈タカラジエンヌAト劇場ニ行ク約束ヲシテ指定ノ場所デ元タカラジエンヌ(OG)ト妻ノ三人デ待ツガ一向ニ現レナイ。ヤツト現レタノデ、キツト先輩ノOGガ怒ルダロウト思ツテイタラ、何ントAヲ抱キシメテ、デイープキツスヲシタ。現実ヲフイクシヨンニ切リ返ストコロハ、サスガタカラジエンヌダ。ボクハココニ愛ト寛容ノ悟性ヲ見テシマウノダツタ〉

起床と同時に一点描く。今日で10日目だが22点に達する。これでも早いとは言えない。

夜、朝日新聞の書評委員会へ。3冊ゲットしたけれど読書は嫌いだ。
2019.2.28
 毎日絵を描いているので疲れる。だけど、会社員ならいつも決まった作業をしているはず。この位で疲れたとは言えないだろう。でも待てよ。ぼくは82歳だ。定年をすでに22年も越している。60歳未満のサラリーマンとは違う。やっぱり疲れて当り前だが、命令されてやっているわけではない。逆に時間的に動くことは体力にもいい。ジムに通っていると思えばいいのだ。

日経新聞の山田詠美さんの小説「つみびと」が終って、銀座の鉄板焼銀明翠で打上げ会を。山田さんは同じ人に数年後再びナンパをされた。彼女はよくナンパをされるが、自分からもナンパをするらしい。今の主人もナンパ? この小説の挿絵を指名されたのもナンパだったのだろうか。きっとそうだ。次回の会食は単行本が発行された時にと約束して雨の銀座から帰る。
左から塚田、南、以倉、横尾、谷、伊藤、徳永、山本、平林さんら。静岡市美術館にて(撮影・倉橋正)
2019.3.1
 静岡市美術館で開催中の「起点としての80年代」展にちなんで谷新さんとトーク。展示作品をザッと観るが、「これが日本の80年代?」。この80年代の現代美術は新表現主義という世界同時多発的に大規模な絵画のムーブメントが席巻した。にも関らず、日本は世界から孤立して、世界の動向、潮流に乗ることができなかった。この頃、日本は一体何を何処を見ていたんだ。80年代の具象絵画の復権、肉体の回復、歴史再考、物語回帰などに挑戦、考慮した絵画など一点もない。バスキア、キース・へリングらのグラフィティ(ストリートアート)からも程遠い。せいぜい日本のヘタウマのイラスト的作品ぐらいだが、これとて魔術的表現の欠如。作家の選択も学芸員と同世代の者が中心というのも納得がいかない。このズレというかネジレに唖然とするしかない。80年代初頭に画家に転向したぼくは評論家藤枝晃雄にコテンパンに批判された。「ニューペインティングのシュナーベルと横尾はピエロだ」と。世界の動向を無視して、作家の個性にばかり集中し過ぎた結果の、世界から取り残された日本のドメスティックな村意識だったんじゃないか。この鎖国的発想は60年代のポップアートにも遅れを取ったことの反省さえ未だにないことを証明したようなものだ。具体美術の世界への紹介の怠慢だって同じである。

トークに愛知県美術館の南さん、世田谷美術館の塚田さん、ハラ ミュージアム アークの青野さん、横尾忠則現代美術館の山本、平林さんらの美術関係者の姿にホッコリ。
2019.3.2
 日帰り旅行の疲れは多少あるけれど、一晩眠れば快復。今日は一点しか描けず。
2019.3.3
 毎週木曜日、早い時で水曜日に送付される「週刊読書人」が4日遅れで届く。

今日現在小品32点完成。このシリーズ、あと10点は欲しい。最近は絵を描くのが義務でも習慣でもなく、単なるクセになってきた。

夜、ビデオで東京マラソンを観る。期待の大迫も途中リタイア。他に興味のある競技がないので東京オリンピック時には、64年の東京オリンピック同様、騒々しい日本を離れるか。(よこお・ただのり=美術家)
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