菊地成孔・冨永昌敬(司会=福島勲)公開トーク載録 デュラス/ゴダール対話と映画の夜 トークイベント『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話』(読書人)をめぐって|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月15日 / 新聞掲載日:2019年3月15日(第3281号)

菊地成孔・冨永昌敬(司会=福島勲)公開トーク載録
デュラス/ゴダール対話と映画の夜
トークイベント『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話』(読書人)をめぐって

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第5回
「ええっ、ビール!」ゴダールが絶句


冨永 
 この本のパンチラインについて最初にこの話をしたいのですが、マルグリット・デュラス原作の映画で一番有名なのは、ジャン=ジャック・アノーが映画化した『愛人 ラマン』です。ところがこの本でゴダールが自分も映画化を希望したいと申し出て、デュラスが断ったという衝撃的な会話が出てくる。
菊地 
 それは嫌でしょう、デュラスとて(笑)。この本にはびっくりするような会話がたくさん入っていて、蓮實先生の帯が全てを物語っています。蓮實先生のゴダールに対する可愛がりが出ていて、

《ゴダールがデュラスに向かって「ええっ、ビール!」と絶句する瞬間の真摯な滑稽さ……。「同じコインの表と裏」だというこの二人の対話は、かろうじて存在しているかも知れない映画やサルトルをめぐるやりとりはいうに及ばず、キスについてさえ真摯にしてかつ滑稽である。この真摯で滑稽な言葉のやりとりを読まずにおく理由など、存在するはずもない。(蓮實重彥・映画評論家)》

映画が存在しないと理由が存在しないという、存在という言葉をかけているところはさすがで見事な短文です。ちなみにこの会話は、二人はテレビ番組のことを馬鹿にしていて中でもコマーシャルフィルムを馬鹿にしているんです。そのテレビCMの依頼がデュラスにあったという話で、ゴダールが何の依頼ですかと尋ねて、デュラスが「ええ、ビールの!」(一四七頁)と答える。それに対してゴダールが絶句する(笑)。
冨永 
 その「ええっ、ビール!」の後、デュラスは「そう、撮影はアフリカよ。でも、彼らは二度と姿を現さなかった……。」と(笑)。それと、僕が面白かったのは、「あなたに話をもちかけるなんて、こちらが無作法でした。断ってくれてよかったです。本当によかった。だって、ぼくには撮れそうにありません。」(一四二頁)というゴダールのコメントでした。
菊地 
 「前に『愛人 ラマン』の映画化を許してもらえるか、たずねたことがありましたね。断られましたけど。」「ええ、だめよ、だめ。そもそも、あなたに頼むなんて言ってないし」って(笑)。これは特別なパンチラインじゃなくてこの調子が最初から最後までずっと続く。たとえばゴダールの自己演出で絶対読んでるに決まってるんですけど、僕は本フォビアで、本を一冊通して読んだことがないと。若い頃は読んでいたんだけど今は本を読めない。だからあなたの小説も読んでいませんと言うんです。これはゴダールらしい噛みつきというか自己演出で、最初の対話ではデュラスがいかに言葉を大切にしていて、自分はいかに言葉が嫌いかという話をしている。でも一般的にゴダールは映画監督の中で一番言葉が好きで、映画人でなくエクリヴァン(書く人)だと言われるくらいなのに言葉が嫌いだと言い続けている。哲学談義でサルトルの話になって、デュラスはサルトルが大っ嫌いなんですね。でも、ゴダールはサルトルをちょっと認めてるところがあって、それに対してデュラスは絶対にサルトルを認めないというところで決裂する。

デュラス「だって、サルトルは一行だって文学を書いていないわ。」「彼が書いたゴミの山ときたらね。ダメ人間のとんだ大一代記だわ。」

ゴダール「ええ、ですが、やっぱり誇張し過ぎですよ。……」

デュラス「トラック何台分もあるわ。本当にびっくりよ。(中略)レイモン・クノーはそういうのを「ミリオネア作家」って言っていたわ。まったく呆れるわよ。」

ゴダール「いやいや、理由があるんです。サルトルには居場所がなかったんです。」

デュラス「ずいぶん長いこと居場所探しをしてたわね。」 (本書一三〇・一三一頁より抜粋)

デュラスはとにかく辛辣で本当に気持ちいい。全体的に喧嘩みたいなところはあるのですが仲良しですよね、やっぱり。
冨永 
 一回目の対談の最後がすごく好きで、デュラスが自分はアメリカに行ったことがないという話をして、ゴダールが「僕はモザンビークにだって行ってるんですよ」と答えたところで目的地に到着して唐突に終わる。このモザンビークについての注釈がすごい。
菊地 
 この本は注釈もすごく勉強になる本ですね。比較的痛快な放談の脇に注釈がしっかり入っています。この註釈は福島さんが付けたのですか?
福島 
 註釈は編者のシリル・ベジャンさんが付けていて、僕はほとんど翻訳に徹して、絶対に違うなというほんの一部分だけ訳注を入れています。
菊地 
 会話っていうのは生々しいじゃないですか。どのくらいの感じで訳されているか予想もつかないのですが、福島さんの手応えとしてはマイルドにしているのか、あるいはストレートに訳しているのか。
冨永 
 絶妙な訳になっていると思いますけれど。
福島 
 翻訳で一番迷ったのはゴダールの一人称で、「私」にするのか「ぼく」にするのか。でもこれはもう「ぼく」しかないなと、上下関係を決めてからは結構訳しやすくなりました。
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この記事の中でご紹介した本
ディアローグ デュラス/ゴダール全対話 (DURAS/GODARD DIALOGUES)/読書人
ディアローグ デュラス/ゴダール全対話 (DURAS/GODARD DIALOGUES)
著 者:マルグリッド・デュラス、ジャン=リュック・ゴダール
翻訳者:福島 勲
編集者:シリル・ベジャン、明石 健五
出版社:読書人
以下のオンライン書店でご購入できます
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