イェイツ・コード 詩魂の源流/面影の技法 書評|木原 誠(小鳥遊書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月16日 / 新聞掲載日:2019年3月15日(第3281号)

「一枚の大いなるつづれ織り」
埋め込まれたイェイツ・コード(暗号)を読み解く

イェイツ・コード 詩魂の源流/面影の技法
著 者:木原 誠
出版社:小鳥遊書房
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 「アイルランドのいっさいの歴史、その背後には一枚の大いなるつづれ織りが垂れ下がっている。」「そのくすんだ折り重なりを眺めていると、一体どこでキリスト教が始まり、どこでドルイド教が終わったのか言い当てることはできまい。」アイルランドの現代詩人・劇作家であるウィリアム・バトラー・イェイツ(1865―1939)は、「わが作品のための総括的序文」の中でこう書いている。本書は、長年イェイツを研究してきた著者が、イェイツ作品のテーマと言えるこの「一枚の大いなるつづれ織り」とは何か、それを解き明かそうとする野心的な試みの書である。その試みは、イェイツ晩年の詩「ベン・ブルベンの麓で」を精読するという形で示されるが、もちろん他の詩作品や戯曲、散文、手紙、草稿などと照らし合わせながら横断的に読むことで、この一大テーマを解明していく。

著者がまずその手がかりとするのは、「古代アイルランド修道院文化」あるいは「極西キリスト教文化」と言われるもの。これは古代エジプトを起源とするアイルランド独自の文化で、ドルイド教とキリスト教どちらの要素も併せ持ち、アイルランドがカトリック教の制度を取り入れる以前に栄えていた文化であるという。アイルランドと言えば、聖パトリックが5世紀頃に渡来し、シャムロックを手に「三位一体」を説いてキリスト教を広めたというのが通説になっているが、本書は現代の歴史学・神学・考古学の動向を調査し、これに異を唱える。イェイツの「聖パトリック渡来2世紀説」への言及を示し、イェイツ作品に登場する聖パトリックは「カトリックの最初の布教者」のイメージを持つのではなく、古代アイルランド修道院文化において「カルディ」と呼ばれた修道僧たちの一人として捉えられるべきであるとし、この「カルディ」の系譜がイェイツ作品を読み解く鍵であると指摘する。

また、古代アイルランド詩の伝統である「ディンヘンハス」の重要性も指摘する。アイルランドの現代詩人シェイマス・ヒーニーも「土地の感覚」と題する散文の中で書いているが、一般的には地名の由来を物語る伝承や詩のことを指す。しかし、古代においてはより宗教的儀式的な側面を持つ詩の形式であったという。そして、イェイツはこれと同種のものを日本の「夢幻能」に見出したとする。夢幻能においては、旅の僧侶など(ワキ)が名所旧跡を訪れると、主人公である霊(シテ)が出現し、土地にまつわる伝説や身の上を語るが、この「憑依」の関係を、アイルランドの各土地ゆかりの「聖者」と「英雄」の関係に見出し、詩において表現しているという。

したがって、本書の内容には、アイルランドの聖者や英雄にまつわる伝説や歴史、例えば、聖コロンバが起こしたとされる「書物戦争」や、6世紀頃からの北西部と北東部の修道会の覇権争い、その後のローマ・カトリック教会の勢力拡大の歴史が含まれ、「聖パトリックの贖罪巡礼の遍路」がアシーンの訪れる島と結びつけられていくところは斬新で面白い。

著者の語りの口調や言葉使い、言葉の定義は独特であり、「イェイツの要請に応じ」読みを実践する様は、時としてイェイツが著者に「憑依」したと言わんばかりの響きを持つ。また、著者は現代の政治や歴史と絡めて意味を探ろうとする読みに対しては徹底的に批判的な態度で挑む。本書は、通説や一般的な解釈に異を唱えて読者の意表を突き、イェイツ研究の「盲点」や「誤読」を指摘して、自説を展開していく著者渾身の一冊となっているのではないだろうか。
この記事の中でご紹介した本
イェイツ・コード 詩魂の源流/面影の技法/小鳥遊書房
イェイツ・コード 詩魂の源流/面影の技法
著 者:木原 誠
出版社:小鳥遊書房
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