彼方の本 間村俊一の仕事 書評|間村 俊一(筑摩書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月16日 / 新聞掲載日:2019年3月15日(第3281号)

彼方の本 間村俊一の仕事 書評
絶滅危惧種の「全身装幀家」
著者ととことん付き合い、その世界を本の隅々まで行きわたらせる

彼方の本 間村俊一の仕事
著 者:間村 俊一
出版社:筑摩書房
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この人の装幀した本を何冊持っているだろうと、本棚や積んである本の山を探ってみれば、たちまち三十冊ほどが見つかった。装幀家は本の表紙カバーでいかに目を引くか苦心するが、間村俊一さんの場合は、背表紙でもう引き込まれてしまう。

「間村俊一の仕事」の副題のある『彼方の本』は、これまで手がけた約三百点の書影を掲載した作品集。ただ、著者はその一点ごとに、装幀の狙い、使用した紙や活字を解説するという親切(野暮)なことはしてくれない。その代わりに自作の句を付すという優雅さだ。

著者は一九五四年、兵庫県の龍野市に生まれた。「赤とんぼ」の三木露風の生誕地であり、『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』のロケ地となった。京都の大学に進学し、アングラ演劇に熱中、加藤郁乎や塚本邦雄の本で俳句に目覚める。古本屋やジャズ喫茶に通い詰める。この頃手にした『定本加藤郁乎句集』(人文書院)に衝撃を受ける。

「それまで目にしたこともなかったメタフィジカルな句の数々に圧倒されたと同時に、いま思えば活版印刷の贅を凝らしたその造本に強く魅かれるものがあったのだろう。装幀の仕事を始めて以来この一冊は、わが足もとを照らす一条の光になる」

そして著者は、本を通して親しんでいた加藤郁乎に赤坂のバーで対面する。このバーの店主が、先の『定本加藤郁乎句集』をつくり、「その造本の美しさによって、ひときわ異彩を放っていた」コーベ・ブックスの社主・渡辺一考だったというのも凄い。

種村季弘、佐々木幹郎、唐十郎、福島泰樹、堀江敏幸、鬼海弘雄、平松洋子ら敬愛する著者ととことん付き合い、その世界を本の隅々まで行きわたらせる。DTPは使わず、自分の手を駆使して紙の版下をつくる。いまでは絶滅危惧種と云ってもいい、「全身装幀家」だ。

友川カズキの「やはり器用というのは狂気を売り渡した駄賃である」という一文を引用して、「半端でない元手がかかった文章」だと評すが、著者の装幀にもたっぷりと元手がかかっている。それでいて、読者が想像力を動かすような余裕があり、それがユーモアを生む。「行閒を渡るかりがねありにけり」という句に、「あまり窮屈にならないこと」と注がある。

私は編集者として、一度だけ間村さんに装幀の仕事をお願いしたことがある。神楽坂の仕事場で版下が仕上がるまで待ちながら、その辺に積みあがった本を眺めていた。版下をいただくと、その足で近くの酒場に連れていかれた。あの日のことは忘れられない。本書にその本の書影が載っていないのが、ちょっと残念だ。
この記事の中でご紹介した本
彼方の本 間村俊一の仕事/筑摩書房
彼方の本 間村俊一の仕事
著 者:間村 俊一
出版社:筑摩書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「彼方の本 間村俊一の仕事」出版社のホームページはこちら
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