第 70 回 読売文学賞贈賞式|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月15日 / 新聞掲載日:2019年3月15日(第3281号)

第 70 回 読売文学賞贈賞式

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左から平野氏、桑原氏、西氏、山田氏、時里氏、古井戸氏

第70回の節目を迎えた読売文学賞の贈賞式が2月20日、東京都内で開催された。六部門のうち、小説賞が平野啓一郎氏の『ある男』(文藝春秋)、戯曲・シナリオ賞が桑原裕子氏の「荒れ野」(「悲劇喜劇」2018年5月号、早川書房)、また随筆・紀行賞が西成彦氏の『外地巡礼 「越境的」日本語文学論』(みすず書房)、評伝・伝記賞が渡辺京二氏の『バテレンの世紀』(新潮社)、さらに詩歌俳句賞が時里二郎氏の詩集『名井島』、研究・翻訳賞が古井戸秀夫氏の『評伝 鶴屋南北』(全二巻、白水社)に贈られた。

それぞれの受賞理由について、選考委員を代表して詩人・作家の松浦寿輝氏が説明した。平野氏の受賞作は戸籍売買を手がかりに、「自分が自分である」ことはどう保証されるかという深い主題を、巧緻な物語として展開した傑作だと評した。古井戸氏の評伝は全二巻の大著で、「お正月がなくなってしまうほど」苦労して読んだと打ち明け、鶴屋南北の戯曲だけでなく「歌舞伎という総合芸術をめぐる文化的風景を全体として描き尽くそうとしたおそろしい野心作」と称賛した。

続いて各受賞者が簡単にあいさつした。桑原氏の戯曲「荒れ野」では、団地の2LDKを舞台に6人の老若男女がどこか不吉な一夜を過ごす。桑原氏は自身の団地住まいを振り返り、いろんな家族が密集した独特なコミュニティーだった団地には、家族のあり方が変化するなかで「時代から取り残されている感覚」があり、その「行き場のなさ」のようなものを描いたと語った。

随筆・紀行賞の『外地巡礼』は、選評の言葉を借りれば「東アジア文学史という大きな構想の中で「日本語文学」を追って文学紀行を続けた稀有の記録となった」(沼野充義氏)。著者の西氏は、そこに帰属していない場所に降り立つ感覚、外国と日本の間の「移動を経験してそれを研究に活かせる」ことが、専攻する比較文学の最大の特徴であるという。移動にともなう文学を世界規模で考える試みを続け、今後も研鑽を積みたいと語った。

渡辺氏の『バテレンの世紀』は、16世紀中葉のポルトガル人の種子島漂着から、ポルトガル人を追放し鎖国体制を完成させるまでの、およそ百年の「キリシタンの世紀」を追う歴史書である。欠席された著者の「謝辞」がご息女の山田梨佐氏によって代読された。十年間連載が続いた雑誌「選択」の編集部に、「のびのびとした気持ちで書きたいように書かせていただいた」。また戦後のキリシタン史学の目の見張るような業績に支えられたこと、「歴史は詳しく述べてこそおもしろい」ことなどが語り伝えられた。

詩歌俳句賞の時里氏は受賞作を、自身の苗字の由来をたどる「旅の一番初めの詩集」と位置づけた。「こんなところで言葉の井戸を掘っていたのか」とふとした瞬間に気づく嬉しさがあり、瀬戸内海の小さな犬島との出会いから、さらに西へと旅をしながら次の詩集のことを考えていきたいと語った。

古井戸氏の鶴屋南北の評伝は、全二巻(分売不可)の1600頁を超える大著で、選考委員で演劇評論家の渡辺保氏によれば、歌舞伎をとりまく千人近くの登場人物の「市井の生活がさながら大河ドラマ」のように描かれる。「一話完結」としても読めて、著者本人もそのつもりで書いたという。江戸の歌舞伎劇場・中村座のある小さな人物に渡辺氏が着目してくれたことで、「わかってくれる人がいて」「ものを書いてきて本当によかった」と締めくくった。松浦氏が全70回の受賞作を見渡して「若木が成長して大木に花が咲き誇っている」と語るように、日本語の世界の多様な魅力に満ち溢れている。
この記事の中でご紹介した本
ある男/文藝春秋
ある男
著 者:平野 啓一郎
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
外地巡礼 「越境的」日本語文学論/みすず書房
外地巡礼 「越境的」日本語文学論
著 者:西 成彦
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
評伝 鶴屋南北/白水社
評伝 鶴屋南北
著 者:古井戸 秀夫
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
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