福島泰樹『バリケード・一九六六年二月』(1969) ここよりは先へゆけないぼくのため左折してゆけ省線電車|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年3月19日 / 新聞掲載日:2019年3月15日(第3281号)

ここよりは先へゆけないぼくのため左折してゆけ省線電車
福島泰樹『バリケード・一九六六年二月』(1969)

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省線電車というのは今はもう死語であるが、国鉄が東京や大阪など大都市圏で運営していた近距離専用電車のことを指した呼び名である。単に省線と呼ばれることもあった。山手線も省線電車のひとつであった。もともとは旧鉄道省が管理していた鉄道路線のことを指していたため、「鉄道省」の「路線」という意味である。

一般的には忘れられた言葉だが、福島泰樹のこの一首が彼の代表歌となっていることで、歌人の間でだけ妙に生き延び続けている。歌の舞台となっているのは六〇年代の安保闘争の時代である。鉄道省が終戦を経て国鉄に模様替えしてからまだ十数年ほどしか経っていない頃の時代なので、とりわけ東京都心部出身の江戸っ子である作者の周辺には、「省線電車」という語はまだまだ現役だったのかもしれない。

しかしそれもさることながら、この歌における「省線電車」という語の意味は、それが国家事業であったことを強調する役割も果たしているのだろう。学生運動への熱中と挫折のただ中にいる青年像が「ここよりは先へゆけないぼく」であり、「鉄道省」の記憶を強くとどめた名称を用いながら、「左翼」の意味との掛詞という性格も持たせて、せめて「左折してゆけ」と願うのである。革命に失敗したとしても、せめてこの国そのものが左に折れていってほしいという、決して届かないだろう願望になっている。ひらがなの「ぼく」を使い、ナイーブな青年像を演出しているところもポイントだ。
(やまだ・わたる=歌人)
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